第34章 呪いの器(三成君)
三成「ありがとうございます。
しかしこの城からも見えますが、山崩れは相当な規模だったのですね。
信長様に報告したよりも修繕費用がかかったのではありませんか?」
大名「この地は山々に囲まれている地形ゆえ昔から山崩れが多いのです。
日頃より修繕費用と修繕に必要になる材木などは蓄えておりました。復旧には大きな出費がありましたが蓄えていた分に少し足せば良い程度でしたので、さして懐は痛んでおりません」
大名の話に三成は感心したように小さく頷いた。
日頃から蓄えていたということは常に節制を敷いた生活をしているということだ。
この地は流通が盛んで城下は活気にあふれている。田畑は少ない代わりに山の斜面に果樹が多く植えられ、秋の終わりには橙色の実がたくさん収穫できる。
商人、町人、農民とそれぞれが収入を得る手段を持っていた。
民から少なくない年貢を得て、大名は贅沢に過ごしても良さそうなものだが、土地を知り安易に他所に借りを作らないために節制に努めていたのだ。
三成「素晴らしい心掛けですね。私から信長様に再報告しますので、夕刻の会談ではぜひ詳細確認をさせてください。
こちらは西国との流通の際、とても重要な位置にあります。
信長様がご納得されれば追加で復旧資金が届くでしょうから、当面使わないようであれば次の備えに回してください。
ご不快でしょうがあなたの証言を裏付けるものとして城の出納帳も確認させていただきます」
大名は頭を下げた。
若さゆえに過小評価されがちな三成だが、共に仕事をした者ならその有能さが知れる。大名は三成の有能さを認めている1人であった。