第34章 呪いの器(三成君)
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礼を述べて三成は椿の部屋の襖を閉じた。
歩き始めて早々にその顔から爽やかな笑みが消え、何か考えるように宙を睨んでいた。
三成「千代姫が湯治とはおかしいな…。
一度大名のところへ行かなくてはいけませんね」
三成はその足で大名の元を訪れた。
重鎮達と話し合いの最中だった大名は、三成を見るなり話を切り上げて全員下がらせた。
親子ほどに年が離れているが、信長から遣わされた大切な使者として優先したようだ。
大名「いかがされましたか、石田様」
安土からの一行が到着した際、大名は夕刻に会談の場を設けていると伝えたのだが、まだその刻限ではない。
何か不手際でもあったかと危ぶむ大名に、三成は申し訳なさそうに微笑んだ。
三成「部屋に案内してもらいましたが、少し日当たりが良すぎるようです。
私の荷物は書物が多いので焼けてしまうと困ります。
日陰で、できれば北向きの部屋を用意していただきたい」
大名「いくら書物のためとはいえ石田様を北向きの部屋に通すのは気が引けますな」
正式な使者を日当たりの悪い部屋に通したと知られれば、後々非難の種になりかねない。
大名は三成の申し出を渋い顔で断った。
三成「安土でも北向きの部屋をいただいておりますので気に病むことはありません。
それと部屋を移る時間が惜しいので、一度にたくさん本を運べるよう男手をお貸しください」
大名「承知した。すぐに部屋を用意させますので元の部屋でお待ちください」
要望が叶った三成は軽く頭を下げた後、仕事の話をするために表情を引き締めた。
ここに来た真の目的は簪を作った犯人を見つけ証拠を集めるためだが、表向きの仕事もこなさなくてはならない。
同時に処理するためには前もって種をまいた方が効率がいい。