第34章 呪いの器(三成君)
————
(第三者目線)
安土城から大名の元へ急使がやってきたのは早朝。
『当日中に石田三成を遣わせる』との知らせに、大名は大急ぎで支度をするよう命じた。千代姫の義母である椿は、女中達に迎え入れの指示を出しながらも密かにほくそ笑んでいた。
椿「急使を遣わせたということは舞姫の不調が簪だと気づいたに違いない。
ふ……ふふっ」
千代姫から舞姫に簪を贈ったと聞いた時は愉快でたまらなかった。
『真珠がついた簪をあげた?私は知らないから、きっとお前の女中が用意したものでしょう』とシラをきるのも忘れなかった。
信長が大事にしている姫に危害を加えれば死罪確定だ。
千代姫が呪いでじわじわ弱っていくのを見るのも良かったが、大勢の前で大罪人として首をさらされた方が積年の恨みがすっきりする。
椿「あの母娘の忌々しいことと言ったら口を開けば節制しろとそればかり。
息が詰まるようだったわ。千代姫が死罪になれば好きに過ごせるかしらね」
椿の夫は信長のもとで着実に成果をだして財政は潤っていた。
それなのに少しでも贅沢をしようものなら『災害や戦に備えて備蓄を増やさなければいけない』『兵の槍や具足を新調できた』『古い井戸を修繕できた』と文句を言ってきた。
どうせ理由などとってつけただけで、単に側室である自分が目障りだっただけなのだろう。
(あの呪詛の方法を知ったのは幸運だった)
(千代姫の母が居なくなれば自由が利くようになると思っていたが、千代姫のせいで上手くいかなかった。
ここでは満足に手を動かせない欠陥品が、正室の娘だからと一目置かれて忌々しいったらなかった!)
思い出して椿の顔が険しくなった。
後妻として正室になった椿よりも千代姫の意見が通ることが多く、そのことが椿をより苛立たせる原因だった。