第34章 呪いの器(三成君)
光秀「窯で暖をとった跡があるな。煮炊きした鍋がここにあるということは、ここで三日三晩、簪を血に浸して過ごしたのだろう」
九兵衛「しかし自分が殺した動物達の目前で三日も過ごせるもんですかね?」
光秀「お前も命じられればやるだろう」
しかめっ面の九兵衛に言葉を返しながら、光秀は冷静に証拠物の確認を行っている。
九兵衛「私の主人はお優しいのでそんなことは命じません。
人間の死体の番をさせられたことはありますけどね」
光秀「同じだろうが。番をしながら平気で握り飯を食っていたと聞いたが?」
九兵衛「さあ、どうだったでしょうか。
忙しすぎて覚えておりません」
とぼけた顔をした九兵衛が山を案内させた男に声をかけた。
その他、近辺の山に詳しい木こりが数人おり、法外な銭を渡してわざわざ連れてきたのは捜査の証言者になってもらうためだった。
光秀「この光景を然(しか)るべき場で証言してもらうぞ。
さて状況確認は済んだ。骨を全部集めてこの箱に入れろ。骨がくだけないよう静かにやれ」
男「へ、へいっ」
男達は気味が悪いといった顔をしているが金を受け取った手前断れず、仕方ないといった様子で血肉が残った骨を箱に移し始めた。
光秀「さて三人の被疑者を絞りこむとするか。
色男に働いてもらうとしよう」
九兵衛「光秀様も十分色男ですがねえ」
心のこもっていない言葉に光秀が艶やかに微笑んだ。
光秀「純真無垢なお姫様方には純真無垢な色男が必要だ」
九兵衛「はいはい、確認ですが三成様でよろしいですか?」
光秀「急ぎだ」
九兵衛ははるか遠い安土までの道のりを思い、ため息をついた。