第5章 姫がいなくなった(元就さん)
元就「はぁっ、どこ行ったんだ、あの女っ」
無性に苛ついて仕方がない。人質の女がいなくなっただけでどうしてこうも苛つくのか。
元就は自問自答し、答えを出せずにいた。
舞が可愛がっていた舵助に会いに行ったら脛を蹴られたので余計むしゃくしゃする。
元就「飯でも食うか」
食事を立て続けて抜いていたことを思い出し、そのせいかと炊事場にたつ。
食材を調理していると否が応にも舞のことを思い出す。
『元就さんがご飯を作っているんですか!?』
『お、美味しい……』
『お皿を洗います。あ…私が洗ったお皿なんて嫌ですよね、すみません…』
人質の自覚があるのかと呆れるくらい無防備に歩み寄ってきた。
安土の姫がどんな女か興味があったが、直に見れば姫というよりも町娘のようだった。
しかし元就の潔癖症にはいち早く気が付いて理解を示し、それとなく対処してくれた。
元就の奇怪な症状に理解を示したのは生きてきた中で舞だけだった。
だからこそ同室で過ごせたのかもしれないが。
一人で食べるには大きすぎる卵焼きが皿に乗った。
元就「……はぁ」
元就は重いため息をはいて、それを一人で平らげた。