第5章 姫がいなくなった(元就さん)
この部屋から舞が居なくなってもうしばらくになる。
姿を消したのは夜。
鍵は元就が管理しているので、勝手に部屋を出ることはできなかったはずだ。
第一、その時元就は同じ部屋で寝ていたのだ。
こっそり抜け出すことは不可能。
だが万が一を考え船内を捜索した。
船員に脱走の協力者がいるかもしれないと誰にも言わず、ひとりでの捜索だった。
知り尽くした自分の船だ。人が隠れられる場所は全て探したが舞は見つからなかった。
海に落ちた可能性も考えたがあの夜、海に人が落ちた音を誰も耳にしていなかった。
神隠しにあったかと本気で疑う事態だったが、おいそれと戦の火種になる女が居なくなったとは言えず、黙っていた。
元就「……」
元就に無理やり船に連れてこられた当初は歯向かい、心を閉じていたが、寝込んだ時に気まぐれに看病したところ、少しずつ表情を見せるようになった。
看病といっても部屋にあった置き薬を飲ませ、粥を作ってやっただけだが。
『ここの絨毯を拭き清めておきました。結構汚れていましたよ?
あ…手袋して掃除したので安心してください』
頼んでもいないのに元就の部屋を掃除し、至る所、塵ひとつなくなった。
気になっていたが放置していた天井の染みまでも、どうやって取ったのか知らないがいつの間にか綺麗になっていた。
『船員さん達が話していたのを聞いたんですけど、元就さんってもう少しで誕生日なんですね』
そう言われた時、意図が掴めず無視すると悲しそうな顔をしていた。