第34章 呪いの器(三成君)
「コホン…失礼しました。とにかくよろしくお願いします」
グダグダな謝罪に冷や汗を流していると、一拍子後、光秀様は口元に手をやってクスクスと笑いだした。
(笑った!?ここは怒るところじゃない?)
光秀「同僚の評価を教えてもらって感謝する。
ところでぷらいどとはなんだ?」
感謝される内容じゃないのに光秀様は機嫌良さそうだ。
「誇りとか矜持(きょうじ)…とか…」
光秀「ふむ…随分と難しい言葉を知っている。
お前はぬけているが頭は悪くないようだな」
「え?ありがとうございます…」
これも感謝するところなのか混乱する頭でお礼を言った。
光秀「さて早くしろと叱咤激励されたことだし動くことにしよう」
「誰も叱咤しておりませんが…」
この人との会話はどうも掴みどころがない。
脳内疲労を感じていると、光秀様は今度こそ立ち去ろうとした。両手で簪が入った木箱をしっかりと持っている。
光秀「これは証拠物だからすぐに処分しない。
札でも張り付けておいて、事が済んだら供養してもらおう」
「はい、お願いします」
光秀「物がなくなっても友情が消えるわけじゃない」
「え……?」
聞き返した時には襖がぴしゃりと閉められた後だった。
(もしかして簪を没収された私を気づかってくれた?)
「光秀様って……イイ人…?」
どこが笑いのツボで、どこが怒りのツボか微妙だけど、ただのイケメン冷血漢じゃなかった。
それは目の前に座っているお偉い方もそうなんだけど、とてもじゃないけど言えない。
三成「安土に馴染んできましたね、舞様」
そう言って笑っていた三成君も、大名の地に赴いた光秀様から知らせが届くと慌ただしく旅立っていった。