第5章 姫がいなくなった(元就さん)
大海原に浮かぶ、大きな商船。
春が訪れ、日の強さが日に日に強まっていくのを直に感じる船の上で、事件は密かに起こっていた。
船員1「おい、最近お頭(かしら)の様子がおかしいと思わないか?」
船員2「そうそう!俺もそう思った!」
船の片隅でひそひそと話している二人の背後に影が忍び寄ったが、二人は気付かずに話を続けている。
船員1「お頭が連れてきた舞様も姿を見てないよなぁ」
船員2「先週、いやその前からか?姐(あね)さん、寝込んでんのかな」
船員1「だったらすぐ陸に向かって医者にかかるだろう?ただの喧嘩じゃないのか?
船員2「喧嘩だったら部屋にとじ込めたら余計空気が悪くならないか?」
船員1「はぁ、お頭が機嫌悪いと俺達もやりづらくて仕方ねぇ」
船員2「姐さんと喧嘩したんなら、早く仲直りしてくれねぇかな」
船員1「その前にお頭と姐さんはどういう関係なんだ?」
うーんと二人が首を傾げていると…
元就「お前ら、無駄口叩いてるんなら、暇だってことだよなぁ?」
ドスのきいた声に話していた二人は口を噤(つぐ)み、後ろを振り返った。
そこには噂の主が剣呑(けんのん)な顔つきで立っていた。
船員1・2「「すみませんでしたぁっ」」
不機嫌な元就には関わらないのが最善。
勝手知ったる二人は頭を90度下げてから、一目散に去っていった。
下手に留まろうものなら拳銃を向けられかねないからだ。
元就「ったく、目を離すとすぐさぼりやがって」
元就は悪態をつきながら、自室へと向かう。
しかしその悪態はどこか空虚さを含んでいた。
ガチャ
鍵を開け、中に入った。
血のように赤い目が、ぐるりと室内を見回す。
元就「チッ…何度見てもいねえな…」
鍵を仕舞い、ベッドに腰かけた。