第33章 歪な愛は回る(謙信様)続編配信記念作品
「あの……とりあえず場所を移しませんか?」
ちょうどあと少しでお昼休憩といった時間だ。
針子部屋を退室して謙信様の部屋まで手をひいて歩く。
謙信様は手を引っぱられるがままについてきて、自室の襖が締まった途端にまた抱きついてきた。否、しがみついてきた。
「っ……!」
重たさに耐えられなくてそのまま膝をついて畳に座り込むと、謙信様もやっと体を離してくれた。両手だけはまだ不安そうに握られたままだ。
「抱きしめてくださるのは嬉しいですが、どうしたのか話してください」
謙信「さっき眩暈を感じて目を閉じたのだが、その刹那の瞬間に舞の亡骸を見た」
「え………?」
謙信「首から腰にかけて斜めに…酷い刀傷があった。
血を流して倒れていたお前の目は……光を失っていた」
倒れていた私は救護活動をする時の軽装でたすき掛けをしていたそうだ。
場所はどこかの野原で、多数の馬が駆け抜けた後のように草が踏み倒されていたことから戦の最中あるいは戦が終わった直後ではないかということ。
雲の少ない晴れた日で、私の目に青空が映りこんでいたことなど、謙信様の見た白昼夢は妙にリアルだった。
謙信「近々戦が起きそうだが舞は城に置いていく。いいな?」
「はい。わかりました」
白昼夢を見る直前に眩暈を感じたというから、きっと謙信様は疲れていたに違いない。
そう思ったけれど、謙信様が安心するならと私は素直に応じたのだった。