第33章 歪な愛は回る(謙信様)続編配信記念作品
謙信「舞!舞は居るか!?」
針子部屋で縫物をしていたところ、廊下のむこうから謙信様の呼ぶ声がした。あんなに声を張り上げる謙信様は珍しい。
針子部屋の視線が一斉に私に集中し、私も何事かと慌てて立ち上がった。
「はい。私はこちらにおりま……す!?」
内と外から同方向にスライドされた襖がバシンッ!と大きな音を立てた。
目の前にたつ謙信様は急いで来たのか肩で息をして、髪も乱れていた。顔色は真っ青だ。
「どうしたんですか?今日は1日針子部屋に居ると言ったでしょう?
こんなに髪を乱して探しに来なくてもいいのに…」
剣術では誰よりも強い謙信様が迷子みたいな顔をしている。この愛しい人は実のところ精神面は脆いところがあって、それでも最近は安定していたのに今日は極端に不安定に見えた。
安心させるために褪せた金髪を撫でつけようとしたところで、有無を言わさず公衆の面前で抱きしめられた。
「謙信様…?」
謙信「……」
戸惑うこちらにおかまいなく謙信様は無言で抱きしめてくる。
仕方ないので広い背中をヨシヨシと撫でてあげた。
「どうしてそんなに不安そうにしているんですか?
この間みたいに私の暗殺計画の情報でも入ってきたんですか?」
以前軒猿の情報網に私の暗殺計画が引っ掛かったことがある。事前に知った謙信様は相手が行動をおこす前に容赦なく叩き潰したのだ。
あの時も神経を尖らせていたけれど、今日はそれ以上だ。
謙信「違う…。何も起きていない。だが起きないとも限らない」
「???」
返ってきた答えは要領を得ず、とにかく落ち着いてもらうしかないとそのまま背中をさすり続けた。
春日山に長く勤めている針子仲間達は、心得たもので黄色い声をあげたりはしない。けれど『まあ、なんて仲睦まじいの♡』といった無言の祝福をバシバシと送ってくる。