第32章 私と恋愛する気ありますか?(謙信様)
謙信「では今すぐ寝間着と襦袢を脱いで裸になれ」
「何するつもりですか?」
伸びてきた手が私の濡れた髪の毛をすくいあげ、匂いを嗅いだ。
途端に淫靡な雰囲気が漂い、私はどうしていいかわからずに、とりあえず身を守ろうと自分を抱きしめた。
謙信「男の部屋で裸になれと言われたらお前は何を想像するんだ?」
謙信様の口から聞いたこともない艶っぽい声が出て、背筋にゾゾゾと震えが走った。
(昔の恋人が現れた夜に女遊びする気なのっ!?)
現代服を差し出すのと野獣様に一晩遊ばれるのとでは天秤にかけるまでもない。
「明日服を持ってきます!」
謙信「今夜中がいいのだが?そうすれば明日のごみ焼きに間に合う」
明日の早朝はごみ収集があるから出せと言われているようで複雑な気分だ。
「暗くて怖いので1人で往復できません」
言ってから『しまった!』と思っても後の祭りだった。
謙信様はこともなげに立ち上がり、私の手を掴んで歩き出した。
謙信「では共に行こう。今度こそ誰にも引き裂かれぬよう」
「何を大げさに言ってるんですか。
その辺で伊勢姫が笑ってますよ?さっき佐助君に驚かされたのを見ていたみたいですから。
だから手なんか握っちゃ駄目ですっ、誤解されちゃうでしょ!?」
謙信「暗い廊下で舞に転ばれても迷惑だ。
さっさと行くぞ」
「どうしてそう優しさの欠片もない言い方するんですか。
伊勢姫はなんで謙信様が好きだったのかなぁ?」
謙信「俺は伊勢姫にはことさら優しく接していたからな」
「あー……この顔で優しくされたら…ねぇ?」
謙信様ではなく、何となく目が向いた廊下の隅に向かって独り言をこぼした。
クスクス……
可愛らしい笑い声が聞こえた気がしたけど今度は全然怖くなかった。