第32章 私と恋愛する気ありますか?(謙信様)
「好きか嫌いかと言われれば好きですけど……ここだけの話、見た目は最高に格好いいんですけど、ちょっぴり怖くありませんか?」
女中「まぁ!そんなこと…いえ……そうですね。
私も初めてお会いした時はとても……フフ」
不敬も甚だしい私の意見に、女中さんは控えめに言葉を濁し笑っている。
そうして笑う姿は少女らしい可愛さもあるけどとても上品だった。将来は絶対美人さんになりそう。
「刀を振り回された時は腰が抜けるかと思ったんですからっ!
でも裏表がないですしね、自分の気の向くままに行動するところが羨ましいなと思ってます。
そしてやっぱり格好良いので、なんでも許せちゃうというか…。
あなたは謙信様のことは好き?」
クスクスと笑っていた女中さんは穏やかな微笑みを浮かべて頷いた。
女中「それはもう……昔も今もずっと敬愛しております。
できることならお傍で仕えたかったですが叶わず…」
とても悲しそうな顔で俯いてしまい、せっかく可愛い笑顔を途切れさせてしまった。
「あ、そっか、謙信様は女性嫌いですものね。
こんなに可愛い子を放っておくなんて謙信様ったら目が節穴なんじゃないのかな」
女中「ふふ、殿は女嫌いではありませんよ」
「ええっ!!!???初耳っ!!
謙信様は女嫌いって聞いていたのに…、あなた何か知ってるの?」
詰め寄ると、女中さんは目を丸くしてすぐに艶(あで)やかに微笑んだ。
まだ可愛らしい少女なのに、達観したような眼差しで私を見つめてくる。
女中「おのずとわかる時がくるでしょう。
殿は情に厚いがゆえに囚われているのです。舞様、あの方をどうかよろしくお願いします。
先程殿はあなたに抱きつかれて少し嬉しかったようですよ。近いうちに殿の心はあなたによって救われるかもしれません」
謙信様を私に託するような言い方が気にかかったけれど『そろそろあがる仕度を…』と促されてしまった。