第32章 私と恋愛する気ありますか?(謙信様)
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(姫目線)
ザブ……
「はぁ~~気持ちいい~」
浴槽を埋めていた水は汲み上げたままの水ではなく少しだけ火を入れてあった。人肌よりもやや低い温度設定で身体を冷やしすぎることなく浸かっていられる。
テカっていると言われた顔を両手でジャブジャブ洗った後、汗を落とすように全身を撫ぜた。
身体がサッパリしたところで心配なのはこの後のことだ。
「部屋に来いって謙信様はなにする気かなぁ。
お酒の続きならいいけど、まさか……私がなんでもいう事をきくって言ったから身体を寄越せとか言ってこないよね?
いやあ、でも今夜の私を見ても全然欲情の気配もなかったし大丈夫か…。
でもでもっ、部屋に二人きりになった途端、野獣みたいに襲い掛かってくる魂胆かもしれない?
あー、なんであの時あんなこと言っちゃったんだろう。
佐助君と謙信様のドッキリで心臓縮みあがったのに、さらにペナルティーありってひどくない?」
身体はさっぱりしたのだが浴槽からあがる気になれずしばらく水に浸かっていると、コンコンと戸を叩く音がした。
「はい!」
女中「そろそろ明かりの油がなくなる頃ですので足しに参りました」
了承すると若い女中さんが静かに入ってきた。もうすぐあがるから少し足すだけで良いと伝えると頷いて慎重に油を足している。
手つきが危ないところを見ると新米の女中さんのようで、油をこぼさないように密かにエールを送るくらい危なっかしかった。
なんとか無事に油を足し終わると私の方に向き直り、可愛らしいが儚げな笑みを向けられた。
女中「お背中を流すよう言われて参りました。
水に浸かったままで、こちらに背を向けていただけますか?」
謙信様は水風呂だけじゃなく水浴びを手伝う女中さんまで手配してくれたようだ。
いらないと断ったら、命じられた仕事をまっとうしなかったと叱られるかもしれないと思って、大人しく背を向けた。