第32章 私と恋愛する気ありますか?(謙信様)
謙信「水風呂を用意させてある。水浴びしてこい」
「え?水浴びって気分じゃ……。
謙信様、男の人のことを見えてない感じでしたけど、最後、避けて歩きませんでした?」
謙信「さあな。あれほど暑い暑いとふしだらな格好をしていただろう。
早く水を浴びてこい」
否定しておきながら謙信は笑いをこらえている様子で、それに気づいた舞は目を吊り上げた。
「さあなって顔じゃないですっ!何か知ってるんだったら白状してください!
あの人の声、佐助君にそっくりでしたよね!?」
怒りの剣幕で詰め寄る舞の顔は、冷や汗を大量にかいたせいでテカテカと光っている。
謙信「暑気払いのための肝試しだ。
佐助が『連日の暑さで舞さんがやられているから、かんふる剤が必要だ』と言い出してな、お前の驚く顔が見たくて協力した。
舞が気づいた通り、あの見回り番の男は佐助だ。
あいつの変装術もなかなか良い段階までいっているな」
廊下を滑るように歩いていたのも幽霊などではなく忍術が関係していたようだ。
「カンフル剤って……。
じゃあ謙信様は最初から見えていたんですか?」
謙信「ああ」
「あれが演技?もー…」
全然演技に見えなかったと舞は猛烈な虚脱感に襲われた。
まさか佐助の『どっきりお遊び作戦』に謙信が参加するとは思いもしなかったのだ。
意外とノリが良くて演技が上手だったなと息を吐きながら、舞は湯殿の引き戸に手をかけた。
さっきの落ち武者男が佐助とわかり、水風呂に入る気になったようだ。
「じゃあさっきの私の一生のお願いはノーカウントでお願いします。
私を騙しておいて一生のお願いをもぎとろうなんて図々しいことしませんよね?」
重い木戸を開け、そのまま中に入ろうとした舞を謙信が引き留めた。