第1章 日ノ本一の…(上杉謙信)(R-18)
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「つ、疲れた……」
他の小姓と交代の刻になり、控えの間で座りこんだ。
謙信様の元で働くようになって十日ほどたった。
仕事内容はやっぱり小姓の補佐で、でも新人の私が謙信様の傍につくのは異例の出来事ということで注目の的となった。
両親や兄上には目立たないようにと言われていたのに、今や春日山城で私のことを知らない人間はいない。
女の私が男装しているものだから中性的な見目(みめ)が女中達に受けて、妙な人気を得ているらしい。
家臣だけでなく、謁見に訪れた方々にも好奇の目でみられ、中には『美童と謳われる森蘭丸が影をひそめるほどに美しい小姓殿ですな』とあからさまに持ち上げることもあった。
(今日は危なかったなぁ…)
謙信様と同盟を組んでいるという信玄様の追及が際どかった。
『髭が生える毛穴さえない綺麗な肌だな』とか『兼続並みに身なりがきっちりしている』とか、さらしを巻いた胸をポンと叩かれて、思わず叫びそうになったりもした。
胸を触られてもなんの反応も示さない私に、信玄様はへえと感心していた。
信玄「結構胸板が厚いんだな」
褒められたけど、なんだか不名誉な気分にさせられた。
謙信様とは必要以上に言葉を交わすことはなく、斬りかかれることもなく平穏に過ごしている。
謙信様が佐助殿と幸村様と鍛錬しているのを見ていると、私と刀を交えた時は手加減をしてくれたのだとハッキリとわかった。
刀を繰り出す速さが倍だ。あれでは私は避けきれずに倒れ伏しただろう。
実力不足の私を傍に置こうと決めた理由がわからなかった。