第4章 月島蛍夢 ちよこれいと
「蛍ちゃんは忠君みたいに自主練しないの?」
「蛍ちゃん呼び止めて言ってるデショ」
ツン、と冷たい返答に頬を膨らませて、怒っているとアピールしたけれど、見事無視されてしまった。
月島蛍は家がお隣同士の幼馴染で、物心付いた時から一緒に遊んでいる。
月島はクールと言うと聞こえがいいが、実際はツンケンした冷めた性格をしているだけである。
「高校バレーって中学までと違うんだね」
「別に僕は変わらないから」
会話を続けようとしても、月島が完結させてしまって続かない。
昔からそうなので、慣れていると言えば慣れているのだが、それが今日は酷いのでムスッとしてしまう。
月島家は長身であり、兄の明光も長身で見上げる事が多かったが、気が付いたら月島の事も同じ様に見上げなければ顔が見えなくなっていた。
「蛍ちゃん付き合い悪い」
「何時もの事デショ」
「今日は一段と酷い」
「君が執拗いからデショ」
訴えてみても軽くあしらわれてしまい、月島の顔は見えない。
何時も一緒にいてくれる山口の存在がどれだけ大事なのかが、こう言う時に分かる。
気遣いできるし、場の空気を和ませてくれるし、同じ幼馴染として雲泥の差だった。
相手にして欲しいのに、年々月島は相手にしてくれなくなっている。
呼び方だって嫌がられていて、学校で呼んだりでもしたら絶対に無視されていた。
「蛍ちゃんどんどん冷たくなってきてる」
ボソリと呟いたので、その言葉は月島に届いていない。
でも、何か言われた事だけは幼馴染だからなのか、先を歩いていた月島が立ち止まり、こちらを見ていた。
「何で今日はそんなに不機嫌なの?山口がいないから?」
月島の問い掛けに、頬をこれ以上ない位に膨らませ、追い越してずんずんと歩く事にした。
冷めた性格をしているが、見捨てたりする性格ではない月島の声色が少し焦ったモノへと変わった。