第3章 *日向翔陽夢 裏側と裏側
『まだまだだけどな!でも出来る事が増えてくのはやっぱり楽しい!』
「うんうん」
もっと話していたかったけれど、もう講義の時間が来てしまう。名残惜しいが正直に日向に告げた。
「ごめん、もう講義始まっちゃう」
『あっごめんごめん!』
「日向の声聞いたらなんだか私も頑張れる気がしてきたよ」
『ホント !? 』
「うん」
頷きながら移動を開始する。ギリギリまで電話出来る様にしながら。
「日向私ね」
『うん?』
「何時も勉強で夜中二時前後まで勉強してる事多いから、その時間帯は電話大丈夫だよ」
声を聞きたいのは日向だけじゃない、と遠回しに伝えてみたけど、伝わったかは分からない。
でも、今は伝えるだけで良かった。
『俺ももっと沢山翔子と話したいから、電話いっぱいするな!』
「うん、私も勉強しながら話したい」
『お互いに寝不足だけは気を付けないとなぁー』
十二時間と言う時差の壁は無くなる事は無い。
互いに裏側に居るのだから。
「そうだね。地球の裏側と裏側に居るの変な感じ」
『ホントホント』
日向の電話の向こうからブラジル語が聞こえてくる。きっと一緒にプレーしている人達なのだろう。
持ち前のコミュニケーション力の高さで何とか出来てきているのだと、安心した。
日本でもブラジルでも、日向が人に好かれる事が変わらなくて良かったと思う。
きっとこれから二年間、日向は素晴らしいプレイヤーにきっとなれると思う。
そんな日向と一緒にいて恥ずかしくない人間になろうと、翔子は決めた。
「それじゃあ日向、無理はしないでおやすみなさい」
『翔子は学校、頑張れな』
「また夜に」
『また昼間にな』
プチッと通話を終了させ、時計に目をやる。
裏側と裏側に住む超遠距離だけれど、機械一つで繋がられる時代に感謝しかない。
足早に歩きながら、今後の目標を決めていく。
元々合った目標に、新しい目標が増え、世界が広がっていき輝かしく見えた。
早めにブラジル語を学べる様に出来ないか、教授に相談してみよう。
日向が裏側から戻って来る前に、翔子が裏側に行ける様に、と。
(2021,4,16 飛原櫻)