第12章 及川徹夢 勝てない相手
「あーうんうん、どうせ断っても来るんでしょ?俺もすぐに帰るから行って大丈夫だよ」
ヒラヒラと手を振る及川に、あの子は小さく会釈をして墓地から出ていった。
出て行く時に目が合った様な気がした。でもあの子は何も言わず、そっと去っていってしまった。
一人残った及川は、あの子の姿が見えなくなったのを確認して、改めて墓石を見て口を開いた。
「タカちゃん、聞いてよ」
墓石に向かって及川は一人話し出した。
「俺、この間すっごい可愛い子に告白されたのにさ、タカちゃんの事思い出したら断っちゃったよ」
及川の話が自分の事であると知り、驚いてしまった。
可愛い子、なんて認識してもらえていたなんて思わかなったから。
「昔っからさぁ……タカちゃん、俺の事全然見てくんなかったじゃん。小学校の時は誰もいなかったけど、中学入ったらウシワカいるし、高校になったら何故か飛雄いたし」
ジリジリと燃えている線香の煙が空へと上がっていく。及川はそれを優しく寂しそうな目で見ていた。
「タカちゃんの隣に並べる様に頑張ってたのに、何時もタカちゃんは俺の二歩も三歩も前を進んでて。振り返ってもくれなかったじゃん。俺結構傷付いてたんだから」
故人に話す独り言として静かに、まるで想いを告げているかの様な姿の及川を黙って見つめていた。
やっと分かった及川の好きな子。
それは小鳥遊と言う苗字で、あの女の子のお姉さんであり、故人であると言う事。
そして、その想いは及川の片思いのまま終わってしまった事を。
「ねぇ、タカちゃん。俺は最後まで君の隣には立てなかったよ。やっぱり天才の隣には天才しか立てなかったのかな。ウシワカや飛雄みたいな天才じゃないと、不釣り合いだったんだろうね」
はぁー、と大きな溜息を及川は付いていた。
自信家である筈の彼が、あんなに自分を卑下しているとは思わなくて驚いた。
彼の言う天才、とは何を指しているのか。
「俺がサーブ覚えられたと思ったらタカちゃんはジャンプサーブ出来る様になってるし、じゃあ、ってジャンプサーブ覚えたらジャンフロ覚えたりリードブロック出来る様になってたりさ……。天才もそこまで来たら怖いんだけど」
あの墓石の下に眠る相手はバレーをやっていたらしい。