第12章 及川徹夢 勝てない相手
「あれぇ?妹ちゃんじゃん!静かなの珍しいね?王子様達はいないの?一人?」
月曜日の放課後、帰宅途中に及川の声がして立ち止まる。
左に曲がった先に及川とあの子がいた。
「烏野行く所?及川さんが送ってあげようか?」
いつもと変わらない及川の口調に対し、あの子は小さく首を振って答えていた。
「……お姉ちゃんの所に行こうかと」
見た目にぴったりの可愛い声だと思っていると、今までの軽い口調じゃない真剣な声色の及川の声がした。
「一人で行くの?飛雄達には言わなかったの?」
「……話したら皆の部活の邪魔になると思って」
小鳥の囀りの様に愛らしい声なのに、とてもか細く消え入りそうな声。
そんなあの子を見ている及川の表情は、悲しげで優しかった。
「一緒に行ったら迷惑かな?」
及川の言葉に少し考えている様子だったけれど、静かに首を横に振っていた。
その姿を見て、及川はスっと手を差し出して言っていた。
「じゃあ妹ちゃんの護衛、この及川徹が致しましょう」
◆
何処へ向かっているのかと思って後を着いていくと、そこは墓地だった。
とある墓石の前に二人は止まり、あの子は持っていた花を添えている。
「まだ頻繁に来てるの?」
「週に一回は必ず」
「飛雄達着いてこないの?」
「何回か。でもそれだと、春高予選の練習もあるのに、中断するので……」
「妹ちゃんは優しい子だもんねぇ、気にしちゃうよね」
及川の話にあの子は素直に頷いている。
あの墓石はあの子の家のモノである様だけれど、及川や周りがお墓参りに付き添う相手が、眠っている様だった。
「もう一ヶ月半だっけ?…………いや、まだ、だね」
及川がそう話していた所、携帯の着信音が聞こえ、あの子は携帯を取り出して及川の事を見ていた。
「誰?出ても大丈夫だよ」
「影山先輩から……」
「飛雄かよっ!ホントかっほごだよね」
電話の相手を知り、あからさまに嫌そうな顔をする及川を見つつ、電話に出ていた。
「こんにちは。えっと、一人ではないです。及川さんに会って今一緒で。大丈夫ですよ?自分で行けますから。えと……じゃああそこのコンビニでも大丈夫ですか?はい、はい」
通話が終わったらしいあの子は、及川に控えめな様子で伝えてきた。
「影山先輩が迎えに来てくれるって……」