第12章 及川徹夢 勝てない相手
「ごめんね、俺好きな子、いるんだ」
勇気を出した告白は叶う事がなかった。
勝てない相手
及川徹に恋して二年、やっとの思いを伝えたら、及川は寂しそうな顔をしながら返事をくれた。
「ごめんね、気持ちは凄く嬉しいんだけど、俺好きな子、いるんだ」
あの及川徹が好きになる相手だから、物凄く可愛い子なんだろうな、と涙が出たけど納得するしかなかった。
そして暫くしてから及川が可愛らしい見た目をした中学生の女の子に、楽しそうに声を掛けている姿をみかけた。
ああ、あの子が及川の好きな子なのか、と納得した。
歳下で小柄で、誰が見ても可愛らしい女の子。
自分みたいに何処にでも居るモブと違い、ヒロインに相応しいあの子とは、そもそも立っている土俵が違うのだ。
及川は年の差を気にして告白していないのだろう、と思った。
何年生か分からなかったけど、中学を卒業したら告白するのかな、と悲しい気持ちを抱いて過ごしていた。
「及川、お前いい加減にしろよ」
昼休み、渡り廊下を歩いていたら岩泉の声が聞こえ、足が止まった。
「岩ちゃんなんの事?」
及川の声も聞こえ、良くない事と分かりながらつい盗み聞きしてしまった。
「小鳥遊妹の事だよ」
「ああ、妹ちゃん?可愛い子だよねぇー」
及川の言葉にあの中学生の女の子の姿が浮かんだ。小鳥遊、と言うのかと思いながら。
「ちょっかい出すんじゃねーよ。向こうの状況少しは考えろよ」
「烏野べったりだよねぇ。つか飛雄がべったりしてて腹が立つ!」
烏野、と妹、と言う単語を聞き他校の知り合いの妹なのだと知る。そしてライバルもいるのだと。
「状況が状況だからだろ」
「妹ちゃんさ、全然似てないの。本当に姉妹なのか疑う位に素直な子でさ」
誰の事を話しているのか耳を澄ませて聞き入る。まるであの子が主軸ではないかの様な、会話内容で。
「タカちゃんはツンケンした強気な性格だったのに」
「姉妹言っても別人だから性格違って当たり前だろうが。そもそも妹に小鳥遊を求めるのがおかしいって言ってんだよ」
「分かってるよ……見た目も中身も全然似てなくてさ、妹ちゃんの中にタカちゃん探しても全然見つからない」
「妹にも小鳥遊にも失礼だから、本当に止めろよな」
岩泉の言葉と及川の表情を見て、私は何か勘違いしているのではないのかと、思った。
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