第8章 宮治夢 雨降って地固まる
「あ、うん」
余り目線を上げられずに頷き歩き出した。
身長差があるので傘の位置が高く、視界は鮮明に見える。
先程より雨足は弱くなってきたけれど、まだまだ降り続きそうである。
流れに押されてしまったけれど、よく考えたらこれは相合い傘ではないのかと思うと顔が赤くなってきた。
学生の憧れ、であるけれど相手は名前も知らないただ同じ学校の生徒なだけ。
どうせ駅までの距離、徒歩で十分もないのだから、すぐに終わるのだと言い聞かせる。
そして、濡れたら困ると紙袋を抱え直していると声を掛けられた。
「甘い匂いがする」
匂ったのか、と思いながら笑顔で答える。
「行き付けの甘味処で色々と買い込んでもうて」
「へぇ」
「あ……、男の子じゃあ甘い物やら、興味あらへんよなあ?」
話題として失敗したな、と思うと少年は少し考えたら様子をしてから答えた。
「好かんちゃうな。進んで食べへんだけで」
可もなく不可もなく、かと思っていた所、少年の右肩が濡れている事に気が付いた。
紙袋ばかり気にしていたが、パッと顔を上げると傘は自分の方寄りになっていたのだ。
「肩、濡れてんでっ !? 」
「あー」
ぱっぱっと濡れる肩を払いながら、少年は言う。
「余りにもその紙袋大切そうに抱えてるやんか、濡れたらマズイのか思て」
「いやいや!中身お菓子のだけやさかい!そないに濡れたら、傘さしてる意味無うなってまうで !? 」
焦っていると駅が見えてきた。それを見て少年は言う。
「ほなお詫びって事でマック奢ってくれへん?丁度お腹も空いとるから」
◆
「宮君言うねや」
「あー、治でええで。俺双子やから宮呼ばれると、どっちか分からへんなる」
「えっと……ほな治君」
レジで注文を済ませ、席に着いて一息付く。
お詫びでセットをご馳走したのだけれど、治が追加で買った量に目が飛び出そうになった。
「運動部の食事量なんてこれが普通やで」
身体も大きいし、運動部じゃ仕方ないかと納得はした。
それでもよくこんなに食べられるなぁ、と見ていると治は食べながらに言った。
「先輩やったんでんな。敬語使うた方がええか?」
「あっ、別にそう言うの気にせんでいけるで。運動部みたいなガチガチの上下関係苦手やし……」
「ほなタメ口でいかんといて」