第6章 花巻貴大夢 ボーイシュークリームガール
この店この時間、まさか、と花巻が慌ててデザートコーナーへ向かうとそこには見慣れた姿が。
今日も綺麗に結ばれたポニーテールに、深緑のブレザー。
その手にはシュークリームの袋があり、それを手にサッとレジへ向かっていってしまう。
「しまった !? 」
慌てて陳列棚を見るとやっぱり最後の一つだったらしく、シュークリームの姿は何処にもない。
バッとレジを見るともう会計も終わるらしく、支払いの真っ最中。
店員から袋を受け取ると、颯爽と出て行ってしまう。
「…………俺のシュークリーム」
ギリィ、と苦虫を噛み潰したような表情でその後ろ姿を見ていると、ピタッと立ち止まり、チラッと花巻の事を見てきた。
そして、フッと鼻で笑う様な表情をして立ち去ってしまった。
「な……なっ……」
鼻で笑われた事に、花巻は震えていた。
◆
「鼻で笑ったんだぞ!絶対に分かってやってるじゃん!確信犯じゃんか!」
「そもそも取り合いになってるのを分かっていて、呑気に店内回ってる方が悪いだろ。先にシュークリームカゴに入れろよ」
バリボーを見ながら言う松川が正論しか言わないので、花巻は持ってきたジャンプを握りしめて言う。
「少年ジャンプは心のバイブル!」
「いや、知らないから」
「はぁ〜〜……俺のシュークリーム……」
ぐったりする花巻を横目に、松川は淡々と言ってきた。
「てか花巻も花巻だけど、そのシュークリームガールも凄いな。シュークリーム以外買えば良いのに」
「シュークリームガール?」
愛称に顔を上げるので、松川は言う。
「いやだって伊達工女子である事以外、何も知らないだろ?名前とか学年とか一切」
「……そうだな」
「そうなると何て呼べば良いのか分からないからシュークリームガール。あ、向こうからしたら花巻はシュークリームボーイだな」
変な愛称が出来たと、再び机に伏せって花巻は呟いた。
「シュークリームガールが憎い…………」
「他の店舗でも行けば良いだろ?」
「……あの店が一番家から近いんだよ」
「じゃあシュークリームガールもそうなのかもな」
「小中で見た事ねぇよ」
「ふーん」
興味の欠片もないが話を聞いてくれてはいるので、松川の反応が悪くてもそこは我慢するしかなかった。
松川に愚痴った所で、手元にシュークリームが来ない事も分かりきっている。
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