第5章 *孤爪研磨夢 無色少女
そんな過ごしやすい幸せな時間は、俺の家の隣に引っ越してきた奴によって崩される事となった。
「研ちゃんその腕どーしたの !? 」
久しぶりに家に来た彩香は、真っ赤でブツブツになっている俺の両手を見て大声を上げていた。
「『ただの』内出血」
「内出血 !? なんで !? 」
心配そうな彩香に向かって、俺はボソボソと説明をしてやった。
「ちょっとバレーやって」
「研ちゃんバレリーナになるの?」
「踊る方じゃなくて、ボールの方」
俺の説明に、少し考えた彩香は身を乗り出して言う。
「研ちゃんスポーツやったの !? なんで !? 」
彩香の反応は真っ当であり、コントローラーをカチャカチャ動かしながら、正直に告げた。
「家の隣に引越して来た奴、俺の一つ上の奴なんだけど、そいつバレーやってたみたいでほぼ無理矢理みたいな形で誘われてやった」
「研ちゃんゲーム以外したがらないのに?」
「そうだよ、そうしたらこの腕」
ほぉ、っと俺の腕を見ながら感心する彩香に、眉間に皺を寄せながらに言う。
「何なの、その顔」
「その子、今日はいないの?」
マズイ、彩香が興味を持った。
そう思った時に、階段を上り部屋のドアが開く音がした。
「げっ」
「おっ?」
部屋の外から顔を覗かせたのは、バレーボールを持つクロ。
クロはすぐに彩香の姿を見て、人見知り激しい癖に食いつく様に尋ねてきたのだ。
「えっ?研磨の部屋に女の子?下にいた人の子供っ?」
彩香とクロは正直関わって欲しくないので、どう追い返そうかと考えている間に、クロは勝手に彩花に話し掛けている。
「俺隣の家の黒尾鉄朗。君は?」
「彩香。赤羽彩香。研ちゃんのおばちゃんと私のお母さん、親友なの」
「へぇ」
クロの問い掛けに答えながらも、彩香の視線はクロが持つバレーボールに注がれている。
マズイ、彩香がバレーに興味を持ち出した。
「クロっ!新しいゲーム買ったからさ……」
「明日の話、バレーしながらしようと思ってさ!」
最悪、だ。
彩香に一番聞かれたくない話をされてしまった。
クロの言葉に彩香は目を輝かせながらに、俺の事を見て言う。
「研ちゃん、明日何処行くの !? 」
「……………はぁ……最悪」
手から力が抜け、コントローラーがごとん、と床に落ちる音がした。
◆