キミだけのヒーローに.......【ヒロアカ/爆豪勝己】
第6章 #3 果報
命のその言葉に、俺も出久も何の絵本を持ってきていたのかすぐに分かった。
命の唯一の娯楽であった絵本。その中でも一冊だけ、読み直しをしていたのか、ボロボロになっているのがあった。無論それはヒーローとは無関係の絵本。
月の話の絵本だった。
命の話によれば、前まで住んでいた所は何時でも白くて、それ以外はなかったらしい。
そんな環境で生きてきて、絵本だけが楽しみであった命がたまたま興味を抱いたのが月だった。
暗い空の中に光るモノ、と興味を抱き初めて見せてもらった月は三日月だったらしい。
大きくて、黄色くて、光っていて、皆のモノ。
そう教えられているらしいので、月を『借りている』絵本が宝物となったらしい。
俺には全く分からない感情であるが、命がそれで良いのだと言っているのだから好きにさせていた。
「命ちゃんお月様の絵本大好きだねぇ」
絵本を見ながらニコニコと笑う出久を見て、命は珍しい位に必死に首を縦に振ってアピールをしていた。
その姿を見つつ、命が汗を流しているのを見て溜息を付きながら手を伸ばした。
「重くて疲れてきたんだろ。帰りは俺が持ってやる」
俺の言葉に命は少し悩んでいた。普段ならばすぐに差し出すのだが、今日は宝物が入っているので迷ったのだろう。
それでも小柄な命が絵本をずっと持っているのは辛かったのだろう。おずおずとカバンを差し出しながら、命は俺の事を見てくる。
「落とさねぇよ、絶対に」
俺の言葉に、命はぱぁっと明るい表情へと変わるのだった。
◆
「…………」
一人部屋でベッドに転がりながら、オールマイトのカードを眺めていた。キラキラと光るカードはまるで太陽の様に輝いている。
『へぇ、命ちゃんがそのカード当ててくれたんだ。命ちゃんは果報者だなぁ』
『かほうもの?』
『あー、まだ勝己には難しい言葉だったか。果報、って言うのはよい運を授かって幸福なこと、って言う意味でな』
『ふーん』
『運のいい人、って事』
父親に言われた事をぼんやりと考える。幼稚園児の頭で理解する事は到底無理なのだが、兎に角命は運がいい、と言う事だけは理解出来た。
欲張りは当てられない、と母親が言っていた記憶がある。
つまり、よく当てる事が出来る命は欲張りでない事。更に運がいいと言う事を理解した。