キミだけのヒーローに.......【ヒロアカ/爆豪勝己】
第6章 #3 果報
「命の欲しいモノって何なんだろうな……」
毎日一緒に居ても、未だに命の事は分からない事だらけだ。引っ越してくるまでどんな所に居たのか、未だに姿を見せない父親は何をしているのか。
でも命は果報者だから幸福で、今の状況を満足しているのだろう。
俺みたいに次から次へとアレが欲しいコレが欲しい、オールマイトみたいなヒーローになりたい。命が無欲ならば、俺は強欲なのかもしれない。
「運がいい奴が欲しいモノ……」
頭の中で色々と考えてはみるが、どうしても答えは出ない。
そっとカードを置いてから、本棚に並んでいる図鑑から天体図鑑を取った。
命が月のページばかり見るから、そこだけ傷んでいる図鑑。
「月なんかやれる訳ねぇし……」
はぁ、と溜息を漏らしてから図鑑を横にしてゴロリと寝た。蛍光灯の光を見ながら、眩しさと説明が出来ない感情で眉間に皺が寄っていく。
大人だったら良い案が浮かぶのかもしれない。でもその為には親に話さなければならなくて、俺のプライドがそれを許さなかった。
誰かの力を借りずに、自分だけの力で……。
「くっそ……」
寝転んだまま、パラ、と図鑑で黄色く光る月を眺める事しか出来ないのだった。
◆
数日後、出久がトイレに行ったので戻ってくるまで命と二人っきりになった。
今日の命の興味の対象は花らしく、飽きもせずに花壇を眺めていた。
「なぁ、命」
「なぁに、かっちゃん?」
小首を傾げる命の頭を撫でながら、俺は尋ねてみた。
「命は俺と出久が居ればそれで幸せなのか?」
言葉の真意を理解していない命は、すぐに返事を返してきた。
「うん!出久とかっちゃんと一緒がいい」
「それじゃあ……」
「あ、でも、ね」
俺の言葉を遮り、珍しく命が主張してきたので続きの言葉を待った。
命は花壇から空へと視線を動かし、それから俺を見て言ったのだった。
「おとーさん」
「お父さん?」
命の口から父親の事が出たのは、会ってから今日が初めてだった。今まで一切触れてこなかったのに。
「おとーさんに会いたいな。出久とかっちゃんと話するの」
果報者の求める幸せは、俺達にとっては当たり前の事で言葉が上手く出ないのだった。
(2021,10,15 飛原櫻)