【R18夢小説】手に入らないモノを求め【HQ/影山飛雄】
第23章 第二十話 フタリダケノオワリ
「……伊織」
泣きじゃくる池ヶ谷の頭をぎゅっと抱き締めてやると、泣きながら訴えられた。
「止めて……止めてって言ってるのに……どうして止めてくれないのっ?…………妊娠嫌だよぉ」
ぺちぺちと力無い手で俺を叩きながら泣きじゃくる。止まらない涙を親指で拭ってやるが、次から次へと涙が流れ出てくるのでその度に拭い続けた。
流れ落ちる池ヶ谷の涙すら綺麗で、ずっと見ていたい衝動に駆られる。
「怖い……妊娠怖いよ…………妊娠したらどうしよ……」
「産めばいい」
「……っ」
「俺が守ってやるから産めばいいんだ」
肩を抱いて言っても池ヶ谷は首を振って泣くだけだ。無理だと言う意思表示。世の中上手くいく訳がない事は俺だって分かっている。分かっていて今の凶事を続けているのだ。
実際に妊娠をしたらどうやって生きて行くのか。先の事なんて全く考えていない。それでも俺は池ヶ谷を手放せないし手放したくない。死んでも失いたくない。
刻々と流れていく時間の中、時計に目を送る。
そろそろ来てしまう時間だ。
「伊織」
「…………?」
名前を呼ばれ、不思議そうに俺を見てくる池ヶ谷の後頭部を撫でながら低い声で俺は言う。
「絶対に音を立てたりするな。絶対に」
「どうし……」
パシッと池ヶ谷の口を手のひらで塞いで言葉を遮る。耳を澄ませて全神経を聴力に集中させる。
微かにだが確かに聞こえるエンジン音と人の声。ガチャと鍵を開ける音。
「ただいまー。あれ?飛雄、いるのー?」
俺の家だが一人暮らしではない。俺以外に帰ってくる人間なんて限られている。
そう、親が帰って来た。
(2016,4,1 飛原櫻)