【R18夢小説】手に入らないモノを求め【HQ/影山飛雄】
第20章 第十七話 キョウアイ
流石の俺も馬鹿ではない。池ヶ谷に誘われた一回のみで今はただ抱き締めている。
少し前に池ヶ谷は身体の疲れからか静かに寝息を立てて眠っている。
もう状態は落ち着いているらしく顔色も悪くないし、呼吸も規則的で乱れはない。
くぃっと首輪を少しずらすとそこにはしっかりと手の痕が付いているのが、月明かりに見えていた。赤黒く生々しく痛々しい傷だ。
首に触れつつズキズキと痛む手首に視線を移した。手首には殺されたくないと、抵抗した池ヶ谷に掻き毟られた痕で赤く腫れている。自業自得の傷だと俺自身に嘲笑した。
池ヶ谷は俺に殺されそうになった理由を知らない。呼吸が落ち着き次第俺に身体を開いたのはご機嫌取りで間違いない。
俺の怒りを買ったのだと思い、俺の機嫌が良くなる子作りをして直そうとしたのだろう。その身一つの池ヶ谷に出来る事は俺に身体を差し出す事しかないのだから。
「…………伊織」
さらりと柔らかい髪に指を通し、抱き寄せる。身体と身体の繋がりだけが俺達の関係。そこに心は存在しない。
池ヶ谷が子供を宿しても、心の繋がりが生まれる事はない。それ程までに溝は深く険しくなってしまった。
こんな状況に陥っても身体は馬鹿で池ヶ谷に触れたい、欲しいと疼き喚く。互いに傷付きボロボロになってもなお身体が欲しいと求める本能は狂っているのだろうか。
小さな身体を貪欲に求め続け、貪り尽くしたいと思う欲望は狂っている。
欲しい、欲しい。池ヶ谷伊織と言うたった一人の存在が欲しい。
手に入らないと分かっていて手を出し、現実を思い知らされて。それでも学べない俺は大馬鹿者だ。救い様がない程に。
「……ん」
抱き締める度に小さく声を漏らし、すぐに寝息しか聞こえなくなる。
池ヶ谷も俺の様に狂ってしまえばいいのに。好きな奴の事なんか忘れてしまって。俺と言う存在に狂ったまでに依存してしまえばいいのに、と無駄な感情が渦巻く。
狂った者同士だったらきっと互いにしか目が行かずに、互いだけの存在で世界で回っていける筈。そう、それが俺が望む幸福に違いない。
このまま朝が来なければ、そんな馬鹿な事を考えながらそっと目を閉じて眠りへと落ちようとした。
深く深く二度と目覚めなくて良いと思う位に眠りに落ちた。
(2016,3,29 飛原櫻)