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【R18夢小説】手に入らないモノを求め【HQ/影山飛雄】

第18章 第十五話 カタオモイ


 控えめに俺の名を呼ぶ。
 さっきは誰の名前を口にしていた。誰にこの現状から救い出して欲しいと助けを乞い求めた。聞きたいのに聞いたらそれが全て終わりを告げるから、死んでも聞けない。
 押し潰されそうな思いに胸元をぎゅっと握り締めるとそっと池ヶ谷の手が俺に触れた。

「どう……したの?辛いの?……どうして泣きそうな顔をしているの?……泣かないで」
「……っ!」

 なんでお前はそう言う奴なんだ。自分を怯えさせている存在に気遣って、優しい言葉をかけるんだ。そんな風にしてもらったら思い上がるだろう。
 俺の事を想ってくれているんじゃないかって、勝手な思い上がりしてしまうだろうが。
 俺の気持ちも知らないで、俺以外の男に想いを寄せていると言うのに。


 何で俺に優しさを与えてくれるんだ。


 するっと手に持っていた携帯を落とし、そのまま池ヶ谷を強く抱き締める。これ以上顔を見られたくなくて、視界を塞ぐ様に胸の中に頭を抱きかかえる。抱き締められた池ヶ谷は少し悩んだ後に俺に抱き付いてきた。
 想ってもいない相手であっても、ご機嫌取りをしないと何時犯されるのか分からないのだろう。俺のご機嫌取りをするのが一番の自己防衛の方法なのだ。
 俺へご機嫌取りをして自由になれる一瞬があればきっと想い人の所へ逃げてしまうのだろう。

「……伊織…………」

 こんな思いをしてしまうならば最初から出会わなければ、好きにならなければよかった。苦しい思いに身が裂かれそうになる。全部無かった事にしてしまいたい程、苦しい。
 せめて池ヶ谷に好きな奴がいなければ。誰の事も特別視していないのであったならば、俺がその存在になれたかもしれなかったのに。
 なんで好きな奴がいたんだ。どうして俺じゃなかったんだ。俺じゃない誰かの事をずっと見ていて、名前を呟いてしまう程に好きだなんて……。

「とび……」
「何も言うなっ!…………今は何も言わないでくれ……」

 これ以上、口を開かせてまた誰かの名前を呼ばれたりしたら耐えられない。何も言わないでくれ。俺の名前以外を口にしないでくれ。
 自分勝手をした報いなのだろうか。結ばれる事のない片思いに涙が出てしまった。
(2016,3,27 飛原櫻)
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