【R18夢小説】手に入らないモノを求め【HQ/影山飛雄】
第18章 第十五話 カタオモイ
「俺の子を妊娠してくれ」
「っ」
ビクッと震えた池ヶ谷の身体を強く抱き締めて、想いの強さを身体に伝える。でももう根本的な問題で池ヶ谷が俺に恐怖心を抱ききっているのは、事実以外の何でもない。
片思いは甘酸っぱく、するだけで幸せな気持ちになれる。恋愛はすべき事なんだ、とか彼氏彼女とか青春の醍醐味、なんて絶対に嘘だ。
相手が自分の事を見てくれず、誰か他の相手を見て笑いかけている。きっとその相手の事が好きなんだ、と思うだけで胸が張り裂けそうになるし、醜い嫉妬心がどんどん膨れ上がっていくだけで何も楽しくない。
楽しいのは恋に恋をしている、恋愛漫画が好きな奴だけに決まっている。
そうじゃなければ俺のこの胸の苦しみの説明に納得が出来ない。
歪んだ想いは一般論からして正しくない方向へ進むようにけしかけた。その結果が何よりも大切に想っていた存在を限界まで傷付けている。
傷付けば傷付く程溝は深く、修復不可能に陥る。
分かっているのに、もっと俺の手によって傷付いて欲しいと思っている俺はもう頭が狂っているのだろう。
妊娠をさせて肉体的に手に入れる事が出来ても、そこに心はあるのだろうか……。
「…………っ君……」
聞き取れない程か細く弱い声が池ヶ谷の口から確かに漏れた。そしてそれは誰かの名前を呼んでいた。誰か、じゃない、男の名前を、だ。
ぽろっと涙を零すその姿に池ヶ谷に好きな奴がいる事を知ってしまった。いたっておかしくない、心があるのだから。でもその事実は俺の心をこれ以上ない程に抉り傷付けた。
池ヶ谷の心が誰かに奪われている。俺に抱き締められていると言うのに、俺にあれだけ抱かれたと言うのに他の男を求めると言うのか。
(……嫌だ)
池ヶ谷の隣に俺以外の誰かが立ち、二人寄り添う。
(……嫌、だ)
俺じゃない誰かの為だけに微笑みかける。
(い、や……だ……)
俺以外の男の腕に抱かれて喘ぎ、愛し合って子供を作る。
(そんなの……絶対に嫌だっ!)
一番考えたくない事に本気で池ヶ谷の事を抱き締める。抱擁とは違うそれにすぐに気付いたらしく困惑の表情で俺の事を見てくる。困惑の中に相変わらず怯え震えた目のまま、で。
愛しいのに同時に苦しい。
「飛……雄、様?」