【R18夢小説】手に入らないモノを求め【HQ/影山飛雄】
第28章 第二十五話 フタリダケ
「お疲れ様~」
「寄り道しないで帰れよ」
「腹減ったぁ~~」
がやがやと騒がしい部室で、何事もない様に身支度を整えていく。服を着替えながら手首をチラッと見た。
一週間で池ヶ谷に掻き毟られた傷は殆ど目立たなく、治ってしまっていた。
この状態の方がよいのだけれど、正直治ってしまうのが寂しかった。心にぽっかりと穴が開くような気分だ。
さっきまで触れていた池ヶ谷の感覚を思い出し、浸っていると後ろから突然言われた。
「影山シャンプーでも変えたか?」
くるっと振り返るとそこには田中さんが立っていた。
「…………はい?」
「いや、だからシャンプー変えたのか?って話。お前何時もと匂い違うじゃんか。イイ匂いだよなってノヤっさんと話しててさ」
言われた瞬間は理解出来なかったが、すぐに池ヶ谷が使ってきた石鹸の匂いである事を理解した。やっぱりあの甘い匂いが俺からもしていたのか。
スン、と腕の匂いを嗅いでいると菅原さんが笑いながらに言う。
「それ今女子に人気あるヤツだよな~~。確か池ちゃんも使ってたべ?」
「へぇ…………親が買ってくるのを使ってるんで全然分からないです」
興味なさそうに言えば誰も怪しまないし、手作りじゃないのだから同じ銘柄を使う事があるのは普通である。
そんなに匂うのかと気にしていると、田中さんはうっとりとしながら言う。
「いやぁ、きっと潔子さんも使ったりするんだろうなぁ~~」
「いや、龍!潔子さんは甘い香りよりも清らかな香りを選ぶ筈だっ!」
「た、確かに!」
ドーンと騒ぐ二人を横目に頭を上げて先に部室を出た。ぱかっと携帯を取り出すとすぐに電話をした。相手は勿論池ヶ谷、だ。
数回のコール音の後に池ヶ谷の声が聞こえた。
『もしもし?』
「今何処にいる?」
機械越しに聞こえる声であっても、池ヶ谷の声で安堵する。早く直接聞きたい声だった。
『今武田先生からの話終わったら職員室前だよ』
「迎えに行く」
『だ、大丈夫だよ?』
少し慌てた声色を聞き、困り顔で慌てる姿がすぐに脳裏に浮かんだ。
きっと全身で身振り手振りしているのだろう。いないのに今目の前で困った顔で見上げている池ヶ谷が見えた。
「逢いたいから行く」
『…………うん』
ぽそっと恥ずかしそうな返事を聞いて、通話を終了させて足早に職位室へと向かっていく。