第1章 赤ずきん
するとその大きなイビキを聞きつけて、この森で活動する猟師の武道が万作家にやって来ました。
「すげえうるさいイビキだな…誰だよ」
家のドアが開いていたので中をのぞいてみると、なんと腹の膨れた狼がベッドで気持ち良さそうに寝ています。
「ええ何これどういう状況?あと、腹…なんだか動いてない?」
ぱんぱんに膨れた腹が時折もぞもぞと動くのが見えて、気になった武道はナイフで腹をかっさばいてみました。すると、なんと腹の中から赤ずきんが、続いて万作が出てきたではありませんか。
「マイキー君!?なんでこんな所から」
「場地に喰われた。うちのじいちゃんもだ」
「ば、場地君?この狼、場地君なんすか!?」
マイキーの突飛な話に武道は頭が混乱します。しかも狼の腹はまだもぞもぞと動いています。
「ん?まだ誰かいるみたいだけど…」
二人が出てつっかえが取れたのか、奥から猟師仲間の千冬が姿を現しました。
「ばっ…場地さぁん!」
「いやお前も喰われとるんかい!」
武道は仲間の千冬がすでに食べられていたことに驚きを隠せません。
「場地さんに食べてもらったあぁぁ!」
「喜ぶな!そんな場合じゃないだろ!?」
とにかく、赤ずきんのついでに相棒を救えたことに安堵していると、周りの状況を確認した千冬が愕然とした様子で叫びます。
「…おい!場地さんの腹がっ…何やってんだよ相棒!」
「いやよく見て、これはもう場地君じゃないよ!」
腹が割けているのに弱るわけでもなく、狼の体が修復を試み傷を治癒し始めます。
「場地が力を溜めてる…また襲ってくるぞ」
マイキーが狼の邪悪な気配に勘づきます。狼の姿である場地は、さらに恐ろしさと禍々しさが増していました。
「場地さん!どんな姿でもカッケェ…」
その様子に目を奪われ、ときめいている千冬に場地が問い掛けます。
「千冬ぅ…喰われ足んねーの?」
「えっと、その…ハイ!」
「ハイじゃないんだよ、素直か!抵抗しないとやられるぞ!」
武道が焦って助言するも、振り返った千冬は少し悲しげな表情で伝えます。