第1章 赤ずきん
そこへ、花を摘み終わってご機嫌なマイキーがやって来ました。
「おーいじいちゃん!お見舞いに来たぜ」
万作おじいさんのフリをしてベッドに寝ていた場地が、声色を変えて答えます。
「赤ずきんか?待ちくたびれたぞ、さあ早く入れ」
「そうだぞ。入るよじいちゃん」
さも待ちわびた様子で促して、まんまと家の中へ招き入れます。何も知らないマイキーはいつも通りに接し始めました。
「今日のパイは特に美味そうに焼けてんぞ。食べれそう?」
かごの荷物をテーブルに並べながら、優しく語りかけてきます。
「…あれ?じいちゃん、ちょっと見ねえうちに耳デカくなったなぁ」
ふとマイキーは、万作の見た目に違和感を覚えました。どうもいつもと違って見えるのです。
場地が適当に話を合わせて答えます。
「はは…そりゃお前の話をよく聞けるようにじゃよ」
「それに手も…そんなデカかったっけ?」
「お前をよく撫でられるようにな」
質問するうち、だんだん疑うような顔つきに変わったマイキーが最後に確認してきます。
「じいちゃん…なんで…そんなに口がデケェの?」
「そりゃお前を……捕まえて食うためだ!この時を待ってたぜ、マイキー!」
ベッドから起き上がったのは万作ではなく、大柄な荒々しい狼でした。
どことなく顔が場地に似ています。声も、聞き違いようがない幼なじみの場地のものでした。
「場地!?」
「さあ、大人しくしろよマイキー。ゆっくり…味わって喰いてえからな…」
「やめろ、場地……どうしちまったんだ」
突然の出来事にどうすればよいか、考えがまとまりません。けれども場地は少しも躊躇せずに、まっすぐマイキーに襲いかかりました。
「お前は待ちに待ったメインディッシュ…味わい尽くしてやるぞ!」
即座に両腕でガードして場地の攻撃をいなします。しかし、どうしても幼なじみに手を上げることが出来ず防戦一方となったマイキーは、捕らえられ食べられてしまいました。
万作とマイキーを食べてお腹いっぱいになった狼の場地は、眠たくなりイビキをかいて寝ていました。