第1章 ハーデンベルギア
モネ・アネリアを地下牢に入れてから三日、何事もなかったかのように日々が過ぎた。特に怪しい動きもなく、監視に当たっている兵士からは概ね問題がないことが報告されてた。夜も深い時間帯に自分の目でも確認しに行ったが、女は眠りについており、地下牢に足音が響き渡ってもランプの明かりに照らされても起きる素振りはなかった。訓練されている兵士なら何かしら反応があると思ったが、期待はずれだった。
次回の壁外調査に向けての会議の回数が増えてきた最中、戸籍の結果が出たとハンジからの報告を受け眉をひそめる。
「戸籍がない?」
「そうなんだ。まったくさっぱり。ファミリーネームのアネリアだけでも調べたけど、該当する人物は一人も見つからなかった。本当に巨人が居ない世界から来たのかな?」
「確かに戸籍がないということは確認できたが、それは別の世界から来たという事の証明にはならないだろう。しかし…彼女が持っていた物や装置は、我々の知り得る技術以上の物であるのは間違いない。そこは考慮すべきだ」
エルヴィンの言葉にあの女を地下牢に入れる前のやり取りを思い出す。服、鞄、靴、持ち物、どれをとっても見たことの無いものばかりだった。
ボタンを押せば自ら発光し、絵が浮かびあがるスマホと言うもの。書き物は筆や万年筆などではなく、何か仕掛けを動かすと勝手にインクが出てくるようなもの。上質な財布、見たことのない紙幣、精巧に作られている衣服。
「つまり、親族一同戸籍に載らずに生きてきたやつらがいるか…本当に違う世界から来たのか、それとも…」
「それとも?」
「壁の外で生きていた人間か」
沈黙が流れる。
ハンジはハッとしているようだったが、エルヴィンを横目で見れば顔色ひとつ変えていない。どうせ奴のことだ、おおよそ想定内と言ったところか。
「本人の話によると医者をしていたと言うことだ。監視も兼ねて、医務室で働いてもらおうと思っている。医療知識について嘘をついているかどうかは、今いる医者や看護師に判断して貰う。不用意に外に出してしまうより、我々の近くに置いていた方が相対的に危険は減ると考えるのが妥当だろう。不穏な動きがあれば、その時の判断はリヴァイに任せる。
異論はあるか」
「…特にない」
エルヴィンの判断に従う意思表示をし、かくして女の命は俺に委ねられた。
