第1章 ハーデンベルギア
「…つまり君は記憶を失っているのではなく、もともと壁の中に住んでいた覚えがないと。巨人が居ない世界にいたが、気がついたらここに居た…ということだろうか?」
地下牢越しに椅子に座ったエルヴィンの視線が女に向けられ、聞いた話を要約して内容に差異がないか確認を促すように問う。
女は「はい、間違いありません」と言って頷いた。恐ろしいほど真っ直ぐにエルヴィンを見るその目は、とても嘘をついているように感じなかった。…が、どうか嘘をついていてくれとしか思えない話だった。
「名前はモネ・アネリア…だったよね?」
ハンジは興味津々と言った顔を隠せていない。どうやら興味を持てる対象は巨人だけではないらしい。
「はい、間違いありません」
「前に住んでいたところでは医者をしていた、と」
「そうです。外科医をしていました」
「女の医者ってあんまり聞いたことないけど、君がいたところでは普通のことなの?」
「割合としては男性の方が多かったですが、女医も一定数おりました」
「…おい、ハンジ。てめぇはなんでこいつが他の世界から来たって言う証言を鵜呑みにしてやがる」
「え?だって嘘か本当かなんて話してみないと分からないじゃない」
リヴァイは頭が固いから~とほざくメガネはほっといて女と目を合わせる。自分の目つきの悪さは昔からのもので変えようがなく、今まで散々その視線を怖がるやつを見てきたつもりだ。だからこそこの女が怯えていないのが良く分かる。この状況にやや混乱しているようにも見えるが、落ち着いているようにも見え、そこにどうしても違和感を感じた。
「モネ・アネリア…戸籍は今調べさせているが、結果が出るまでお前の居場所はここだ。嘘をついているかどうかの判断はそれからだ」
「…申し訳ないが、リヴァイ兵士長のいう通り。完璧に君の容疑が晴れたわけではない。最低限の衣食住は保証するが、戸籍の調べがつくまではここで監視下に置かせてもらう。そもそも許可なく壁の外に出るのは法で禁止されている。その禁固刑に比べたら待遇はいいと思ってもらいたい」
女は何かを言おうとして口を開きかけたが、言葉を飲み込んでそのまま俯き「わかりました」と蚊の鳴くような声で返事をした。先ほどの真っ直ぐな目は虚ろになり、そこに涙の滲みを見たような気がして何故か俺も息を飲んだ。
