第1章 ハーデンベルギア
「おーい、リヴァーイ。急にどっか行くから隊列乱れたけど……え、それ…誰?」
俺が隊列から外れたことを気にして追いかけてきたのか、ハンジがその沈黙を破った。自分の背中越しに見る女に目を丸くして指をさす。
「俺が知るか」
舌打ちしそうな所を堪えてハンジに視線を移し、顎で女をさす。ハンジがそれの意を汲んで一つ息をつくと、外面のいい弾んだ声で質問を始めた。
「いやぁ、そりゃそうかもしれないけど…。えーと、私はハンジ・ゾエ。君は?いつどうやって外に出たの?」
「あの、私、気が付いたらここにいたんです。ここは何処ですか?帰りたいんですけど」
「何処に住んでたの?ここはウォールマリアの外で…あ、あの見えるところが壁だよ。もう少し近づくと門が見えるはずだけど。で…えーと…ど、何処に住んでたの?」
ハンジの顔がひきつる。そりゃそうだろうと見ていれば、「電車に乗って…そこから記憶ない…」と、呟いたのが聞こえた。ハンジと目を合わせ、お互いデンシャという単語を知らないとアイコンタクトをして首を振る。
「さっきからこの調子だ。正直何を言ってるのか想像もつきやしねぇが…このままじゃ埒が明かない」
「どうする?ここに置いていく訳にもいかないと思うんだけど」
「チッ、めんどくせぇ」
堪えていた舌打ちがこぼれた。
荷馬車が通るのが見えたので、馬を走らせていきその場に停めさせる。兵士は早く帰りたいところを止められてたまったもんじゃないと言う顔をしているが、こっちだって好きで引き止めている訳じゃない。面倒なんて真っ平御免だ。
「おい、話ならあとで聞く。とりあえず乗れ。妙な気を起こせばその場で殺す。分かったな」
有無を言わさず告げれば、ポカンと口を開けてこちらを見るだけで何も言わない。雨が激しくなってきてローブが重い。
めんどくさいことこの上ない。
「早くしろ、乗れ」
馬から降りて女に手を伸ばす。腕を掴んで引っ張れば、それは簡単に立ち上がった。荷馬車の方に促せば危なっかしい足取りで乗り込み、女は荷馬車の馬に乗っている兵士に、よろしくお願いします。と声をかけて会釈していた。
一体なんだと言うのだ。
何が起きてるのか分からない世界で、さらに新しい謎が出てきたような気がして嫌になる。雨が降る曇天を見上げた。
女のことをエルヴィンに報告しなければと考え、また自然と舌打ちが出た。
