第86章 #86 誰が為に心臓を捧げる
鳥の声が聞こえて目が覚める。テントの中にも太陽の光が差し込み顔を照らした。
リリアは体を起こすと両手を上げ体を伸ばした。
隣のベッドにはまだリヴァイが寝息を立てている。
リヴァイは普段あまり横になって寝たりはしないのだが、余程体力が戻らないのだろう。
ここ数日はずっと横になって眠っている。
リリアはリヴァイを起こさないようにテントから出ると、手洗い場で顔を洗い、辺りを見回した。
まだまだたくさんある瓦礫、その中を人々が行き交っている。
布団を配ったり、食事を配給したり、苦しい中懸命に今を生きている。
大きく深呼吸すると、一緒に持ってきた大きな桶を持ち、お湯を沸かしている場所に向かうとその桶いっぱいにお湯を入れテントに運んだ。
「リヴァイ、起きて。朝だよ」
「……ん」
「お湯持ってきたから体拭こう?」
ゆっくり起き上がりベッドの端に座ったリヴァイ、タオルをお湯で温めリリアがリヴァイ前に立つ。
「服脱げる?」
「あぁ」
「拭ける所は自分でやって、背中は私が拭くから」
タオルを渡すとリリアはベッドの布団をたたみ始めた。
その姿をジッと見つめリヴァイは小さく笑う。
『普通』の生活をしているな、と。
リヴァイは服を脱ぎ、温かなタオルで体を拭き始めた。
ふと、リヴァイが何かを思い付いたように動きを止め、リリアを呼ぶ。
「リリア」
「なぁに?終わった?」
「拭いてくれ」
「背中?いいよ」
リヴァイからタオルを受け取り背中に回る。
「いや、全部」
「はい?」
「全部」
「いやいや…自分で拭いた方が良くない?」
ジッとリリアを見つめたままのリヴァイ、リリアは困ったような表情をしたが折れた。
彼の前に回り膝を付くと、腕を取り優しくタオルで体を拭き始める。
「傷に当たって痛かったら言ってよ?」
「あぁ」
真面目に体を拭くリリア、それをジッと見つめるリヴァイは嬉しそうに微笑んだ。
そしてリリアが胸元に手を伸ばしたその時だ。
リヴァイがリリアをギュッと抱きしめた。