第69章 #69 もう一人のお兄ちゃん
「分かった。火の手を迂回して進もう」
「いいかミヤ、ベンを連れて逃げなさい。それまで私達と一緒に大人しくしてるんよ」
「…はい」
サシャの父親に耳打ちされ、ガビは小さく返事をした。
ここは素直に着いて行った方がいい。
タイミングを見ながらファルコを探す事を決めたガビ、ハッと巨人の方を振り返りリリアを見た。
「あ……あの」
近付こうとしたガビをニコロが止め、そして自分がリリアに近付き膝を着いて肩を叩いた。
「お前も行こう」
「………」
「リリア、ほら」
立ち上がらせようとするがリリアは立たなかった。
「オイ…!」
「私……ナイル兄ちゃんに何も出来なかった……何も返せないまま…こんな終わり方……」
「……早く立てよ」
「何も恩返しが出来ないまま……ありがとうも言えなかった……」
「リリア!!」
「……先に行って……一人にして……」
リリアはニコロの手を振り払った。
今のリリアに何を言っても無駄だろう、ニコロは諦めリリアから離れるとガビの肩を叩き行くように促した。
心配そうにリリアを見るガビはブラウス一家と共にその場から離れた。
「あの人…そのままで大丈夫なの?」
「多分動けないんだろ。あの巨人はアイツにとって大事な人だった」
「え……?」
「一緒に食事をしに来た事もあったし、兄と妹のような存在だと言っていた」
ガビが俯く。
そんな大事な人を自分は撃ってしまった。しかしあそこで巨人を倒さなければカヤの命は無かっただろう。
「多分アイツも分かってる。でも気持ちが追いつかないんだ」
「……でも一人にしてもし…また巨人が来たら…」
「リリアは調査兵団だ、戦闘に関しては大丈夫だろ。一人になる事を望んでるならそうさせてやろう。それに俺達じゃ慰められない。気持ちが落ち着くまで待つしかないんだ」
ガビはゆっくり振り向いた。
リリアはまだ巨人の死骸に寄り添っている。
きっと自分の事を責めたかっただろう、一人になりたがったのはそんな気持ちを抑えるためかもしれない。
自分はまた誰かに恨まれる、今度は自分と仲良くなりたいと、接してくれたリリアを傷付けてしまった。
「ごめんなさい……」