第62章 #62 ありがとう、さようなら
気付いたら手を伸ばして鉄格子越しにエレンを抱きしめていた。
エレンも力一杯リリアを抱きしめ、その手は震えていた。
「たくさん食べて栄養摂って……ちょっと痩せすぎです。あとあんまり立体機動で飛んだり跳ねたりしたらダメですよ。体を大事にして下さい」
「エレン?」
「右手、本当にごめんなさい。痛い思いをさせて…良くなって安心しました」
二人はゆっくり離れお互いの顔を見つめた。
するとエレンがズボンのポケットから何かを取り出しリリアに渡す。
受け取った手を見てみるとそこにはリリアがあげた香り袋があった。
「今までお守りで持っていてボロボロになったけど、辛い時にこれを見ると耐えられたんです」
「エレン…」
「この先も持っていたらオレは進めなくなっちゃいそうだから……お返しします。ありがとう」
「エレン……」
「さぁ、行ってください。これ以上ここにいたら怪しまれます。ただでさえオレを失踪させて罰せられたでしょう?リヴァイ兵長も心配しますから」
エレンは軽くトンっとリリアの胸を押し、距離を開けさせた。
リリアはエレンから目が離せない。
こんなにも優しいのに、仲間の事を思っているのに、何も出来ない自分が情けない。
「さようなら、リリア兵長」
地下牢から離れ、リリアは無気力にただ道を歩いていた。
すると手に持っていた香り袋を落としてしまった。
慌てて拾い上げ見つめると破れた袋を修繕した跡が見える、余程大事にしてくれていたのだろう。
ギュッと握ると中にある何かに違和感を感じた。
袋を開けると乾燥した花の他に紙のような物が入っているのが分かる。
取り出しその紙を見るとエレンの文字で何かが書かれていた。
『ありがとう、リリア兵長。大好きです』
途端に涙がボロボロと流れた。
仲間のために一人悪者になろうとしているエレン、どうにか力になれないかと考えるがどうしても思い付かない。
エレンの言う通り、自分は自分の思いのまま進むしかない。
(もう決まってるってどういう意味だろう……私達がジークと接触させなかったら始祖の巨人の力は掌握出来なくなるんじゃ?)
どうしたらいいのだろう
どうしたら………