第62章 #62 ありがとう、さようなら
薄暗い地下の牢、そこにエレンは入れられていた。
コツンコツンという近付いてくる足音、それが牢の前で止まるとエレンはゆっくり顔を上げる。
「……リリア兵長」
「エレン、話をしにきたよ」
「話す事は何もありません。帰って下さい」
「やだ」
リリアが牢の前で腰を下ろす。
「お腹空いてない?ちょっとした食べ物持ってきたよ!あと髭!!髭の生えてるエレンもワイルドでカッコいいけど、何か違和感というか?剃ろう!」
「………っふ」
地下の牢にエレンの声を殺した笑い声が響く。
変わりのないリリアの態度についにエレンが折れた。
「もう……リリア兵長には敵わないな」
「へへへ」
「あんなに突き放したのに…」
「あれくらいじゃダメダメ!!所々エレンの優しさ出てるしね」
はい、とリリアがエレンに簡単な食事を渡すと、エレンはありがとう、と素直にそれを受け取った。
「髭!!」
「わ、分かりました、先にやりますから…ちょっと向こう向いてて下さい」
「なんで」
「恥ずかしいから…」
「髭剃るくらい恥ずかしくないでしょ!!ほら、早く!」
「分かりましたってば…」
リリアは微笑みながらエレンを見つめていた。
それと同時に悲しくなってくる、どうして急にジークの秘策に乗るつもりになったのか、罪の無い人々を大勢殺さなくてはならなかったのか。