第54章 #54 楽しき時間
ようやくアズマビト家に到着した調査兵団の9人は、先程の出来事をキヨミに話した。
「そのような事がありましたか。確かに血液検査の技術向上に伴い、世界中で収容から逃れたユミルの民の存在が発覚し問題となっています」
かつてのエルディア帝国全盛時代に、世界国々でユミルの民の血を取り込む事が高貴である証とされていた。
それが帝国の衰退と共にエルディアに追従した各国上流層が国を追われる立場となり果てたのだった。
「これが壁外でのエルディア人の現状…そしてパラディ島から友好を図る本計画も極めて困難であると言わざるを得ません」
「かと言って…和平の道を諦めるなら、ジークの謀略に加担するしかなくなります。彼に我々の運命を委ね、ヒストリアと生まれてくるであろう子供達を犠牲にするしか…」
アルミンの言葉に皆が眉をひそめる。
出来るならヒストリアは犠牲にしたくはない。
するとハンジが口を開いた。
「あぁ…勿論そんな未来を迎えないために私達はここにいる。明日行われる国際討論会で初めて登壇する"ユミルの民保護団体"とやらを求めてね」
「…依然としてその団体の理念は明らかではありません」
「えぇ…まずは慎重に見極めなくてはなりません。その上でその団体と我々が相まみえる事が叶うなら…」
「パラディ島が和平を望んでいる事を発表する」
「えぇ……」
キヨミは変わらず難しそうな表情、しかしハンジも分かっている。
簡単にいくわけではない事くらい。
「無論、私共アズマビト家は和平への協力を惜しみません。ですが…それにどれほどの実現性があるとお見込みでしょうか?」
「とても困難である事は分かっています。とても危険である事も。しかしだからと言って最善を尽くさない事は出来ないのです」
「…左様でございましょう」
すると話の途中、ミカサがエレンがいない事に気付いた。
いつの間にいなくなったのだろう。