第5章 #05 殺された被検体
「お兄ちゃん……」
「ん?」
リリアは手を伸ばしてエルヴィンの手の甲に触れ、ギュッと握った。
「私を家族にしてくれて、ありがとう」
「……リリア」
エルヴィンはリリアの手を握り返すと、さらに手を伸ばし彼女の頬に優しく触れた。
その手に甘えるようにすり寄るリリア、手の平に唇が触れるとエルヴィンはハッと手を離した。
「リリア、もう部屋に戻りなさい」
「いるってばー」
まったく、とエルヴィンは苦笑いをしながら再び作業に戻った。
部屋には紙に文字を書く音だけが響いていた。
次第にエルヴィンの隣からスゥスゥと寝息が聞こえてくる。
リリアが寝てしまったようだ。
エルヴィンは筆を置くと立ち上がり、リリアを抱きかかえてソファに寝かせ、椅子に掛けていた自分の団服をリリアにかけた。
そして額にソッと唇を落とす。
「おやすみ」
朝になり窓から朝日が差し込みエルヴィンの顔を照らした。
ゆっくり目を開けると作戦書が視界に入る。
どうやらそのまま眠ってしまったらしい。顔を上げるとソファに寝かせたリリアもまだ眠ったままだった。
エルヴィンは手の平を見つめ、昨夜の事を思い出した。
リリアの唇が触れた手、何故あの時リリアに触れたいと思ったのだろうか。
妹として愛おしかったから?
それとも、それとは違う何か感情があったから?
エルヴィンは軽く頭を振ると立ち上がり、ソファまで歩くと膝を着いてリリアの身体を揺すった。
「リリア、起きろ」
「うー」
「もう朝だ。今日はエレンの実験を見に行くんだろう?新兵勧誘式もあるぞ」
「あ、そうか…」
エルヴィンがリリアの腕を引っ張り起こしたその時だった。
ドンドンと扉を叩く音がし、外から慌てた声がかけられた。
「団長!!大変です!!被検体二体が殺されました!!」
「何?」
エルヴィンとリリアが顔を見合わせる。
昨夜、旧調査兵団本部から帰る際に立ち寄った時には二体ともリリアがいるのを確認した。
その後に殺されたというのか。