第33章 #33 心臓を捧げよ
「新兵とハンジ達の生き残りが馬で一斉に散らばり、帰路を目指すのはどうだ。それを囮にしてお前らを乗せたエレンが駆け抜ける」
「リヴァイ、お前はどうするつもりだ」
「俺は獣の相手だ。奴を引きつけて……」
「無理だ。近付く事さえ出来ない」
二人のやり取りにリリアは黙って見ているしかなかった。
しかし本当にもう手はないのだろうか、視線だけエルヴィンの方に向ける。
「だろうな。だがお前とエレンが生きて帰ればまだ望みはある。大敗北だ、正直言って俺はもう誰も生きて帰れないとすら思っている」
「あぁ、反撃の手立てが何もなければな」
リヴァイがその言葉に顔を上げる。
今のエルヴィンの言葉には何か作戦があるという意味が込められているように聞こえた。
「あるのか?」
「あぁ」
「何故それを早く言わない。何故クソみてぇなツラして黙ってる」
「この作戦が上手く行けばお前は獣を仕留める事が出来るかもしれない。ここにいる新兵とリリア、私の命を捧げればな」
さらに投石が続く。
もう新兵達に気力はない、死への恐怖で泣き叫ぶ者ばかりだ。
「お前の言う通りだ。どの道我々は殆ど死ぬだろう。いや、全滅する可能性の方がずっと高い。それならば玉砕覚悟で勝機に賭ける戦法もやむ無しなのだ」
エルヴィンは話しながら物影に移動し始め、リヴァイとリリアがそれについて行く。
「その為にはあの若者達に死んでくれと、一流の詐欺師のようにていのいい方便を並べなくてはならない。私が先頭を走らなければ誰も続く者はいないだろう。そして私は真っ先に死に、地下室に何があるのか知る事もなくな」
リヴァイが固まる。
「は?」
エルヴィンは大きくため息をついて腰を下ろした。
リリアは何も言わない。自分はただエルヴィンの決めた道に従うのみ。
ここでの迷いは、エルヴィン自身が決めるしかない。