第31章 #31 夢のため
そしてついにその日は訪れた。
エルヴィンとリリアは出発するトロスト区の壁の前でリフトに乗る準備をしていた。
すると後方から声をかけられ、振り向くとそこにはナイルがいた。
「ナイル、どうした?」
「お前達を見送りたくてな」
前に立つとナイルは二人の手を片方ずつ握り、ギュッと力を込めた。
「気を付けて行ってこい。そして二人共無事に戻ってこいよ」
「ナイル……」
「ナイル兄ちゃん」
「お前達を祝うのは俺が一番だからなっ!!いいか!本当に二人共ちゃんと戻ってくるんだぞ?!待ってるからな!!」
するとリリアがナイルに抱き着いた。
小さな頃、エルヴィンが調査兵団に入りなかなか家に戻ってこれない中リリアの世話をしてくれたのはナイルだ。
ナイルにとってもリリアは家族同然、大切な子だ。
正直戦場へ向かわせるのはつらい。
「ナイル兄ちゃん、ありがとう」
「……行ってらっしゃい」
ゆっくり離れるとエルヴィンとリリアはリフトへと乗り込んだ。
壁を登るリフトから見下ろすとナイルはずっと二人を見つめている。
エルヴィンとリリアは手を握り力を込めた。
待ってくれている人がいる、それだけで嬉しかった。