第28章 #28 戻りたくない
「リリア!待ちなさい。どうした?」
足を止めたリリアはゆっくりエルヴィンの方を振り向いた。
その表情は暗く今にも泣き出しそうだ。
「何でもない……帰ろ?お兄ちゃん…」
「リリア?」
「お兄ちゃん」
エルヴィンはリリアに向かって手を差し出した。
しかしリリアはその手を見つめるだけで握らない。
あぁ……
そうか……
リリアも俺と同じか
「リリア、手を繋ごう」
「……」
「リリア…手を取ってくれ。俺は繋ぎたい」
「でも…周りの目が…」
「いいじゃないか。ここは兵舎じゃない、気にしなくていい」
リリアは口をつぐむとエルヴィンの左手を取った。
エルヴィンは微笑むと指を絡めてギュッと握り返し、ゆっくり歩き始める。
「寒くないか?」
「うん、大丈夫。ねぇ?」
「うん?」
「…どうしても今日戻るの?兵舎」
「そうだな。仕事も残してきているし戻らないとな」
「そうよね…」
戻りたくない、そう言いたいのは分かった。