第26章 #26 返事を聞かせて
辺りはもう薄暗くなってきている。
家に入りランタンに灯をつけると、柔らかな光が家の中を包んだ。
「あんまり汚れてないね、よかった」
エルヴィンは部屋に入ると敷物を退け、床下の扉を開けた。
ある物を隠すために床下に目的の物を入れていたのだ。
取り出したのは一冊のノート。
「このノートを取りに?」
「ああ、これは父さんが書いたノートだ。ウォール・マリアへ向かう前にどうしても目を通しておきたくてね」
それはエルヴィンの父親の仮説の事が書かれているノートだ、見られては困る内容なため床下に隠してある。
エルヴィンはノートをテーブルの上に置いた。
「そういえばリリアはどうやって父さんの仮説を知った?」
「今更?」
「リリアが知っていたのはかなり驚いたが、どこで知ったかそういえば聞いていなかった…」
リリアが苦笑いをする。
エルヴィンが訓練兵になるため家を出てからリリアはずっとこの家で一人だった。
つまり誰も彼女を見ている者はいない、一人なのだ。
時間はかなりあった、家を探索し尽くせば床下にも気付く。
「なるほど……探索中に見つけたか。そこまで考えてなかった……しかしよくそこで俺が仮説を証明しようとしていると気付いたな」
「まぁ、お兄ちゃんならそうしそうだなって」
「そうか」
エルヴィンは椅子に座るとそのノートをパラパラとめくり始めた。
ここからが長くなりそうだと、リリアは部屋の掃除を始めた。
1時間は経過しただろうか、エルヴィンはまだノートを見ている。
「お兄ちゃん、少し休んで。お湯を張ったからお風呂入ってきて」
「あぁ」
返事をしつつもエルヴィンは顔を上げない。
「……お兄ちゃん!」
「分かった!すまない」
集中するといつもこうだ。
何を言っても耳をすり抜けて適当な返事をするだけで聞いていない、放っておけば朝までこうなるだろう。
ノートを見て今後の作戦を考え始めたらもう止まらなくなる。