第20章 #20 選ぶのはお前だ
「血が……どこから出てる」
「ナイル……さん?」
「大丈夫か?」
「ごめ……なさい。肩を入れて……外れた」
ナイルは信じられないという顔をしながらも、冷静にリリアの左肩を元の位置に戻した。
はぁ、と大きく息を吐きリリアは痛そうに顔を歪めた。
「すっごく痛かった……」
「当たり前だろう……それより頭の血が…」
「大丈夫、傷口開いただけ……あと、そこのスカーフ拾ってもらえるかな…」
指差した先に落ちていたのはボロボロのスカーフ。ナイルはそれを拾うとリリアに渡した。
「もう破れてるじゃないか」
「うん……でもこれは大事な人に貰った私の宝物なの」
破れたスカーフをポケットに直すとナイルを見上げた。
「ところでナイルさん、どうしたの?」
「どうしたの、じゃないだろ。心配で……」
ナイルはハンカチでリリアの頭から流れている血を拭く。
簡易的ではあるが傷口を包帯で巻いた。
「あんまりだな…これは…」
「お兄ちゃんに吐かせるためにまずは私からだったみたいだね。あぁ……体が動かない…。動いたらアイツやり返してやるのに…」
「バカなことを言うなよ……今は大人しくしてるんだ」
そう言うとナイルは暫くリリアの背中を優しく撫でていてくれた。小さい頃からのリリアを知っているナイルにとっては、このリリアの姿を見るのはつらかった。
いくら調査兵団を潰すためとはいえ、これは酷すぎる。
「リーブスも殺してなんかいないんだろう?」
「……当たり前でしょ」
「どうして反論しなかったんだ」
「したってどうせこうなるよ、適当な理由つけて私とお兄ちゃん捕まえるんだから」
リリアはナイルの服を引っ張った。
「もういいよ、あまり私に構うと目を付けられる」
「しかし…」
「ありがとう、でもこれが…私達の選んだ道……だから」
「リリアちゃん…」
「ナイル…兄ちゃん……ごめんね」
そう言うとリリアはゆっくり目を閉じた。
ナイルはリリアを静かに寝かすと大きなため息をついて牢から出た。
振り返りリリアを見る。このまま置いていたままで大丈夫なのだろうか、しかし今の自分に出来ることはなく、その場から離れた。