第1章 不良少年とビッチ(?)なあの子
私もつくづく二郎に甘いと思う。
楽しそうにサッカーをする二郎を、少し離れた場所で座り、木に凭れて眺める。
打ち込めるものがある彼は、本当に眩しい。
天気がよくて、サッカーをする男子達の声が校舎に響き渡るのが、まるで子守唄のようで、私はウトウトしていた。
「ダメだ……ちゃんと……見て、な……ぃ……と」
頭では分かっているのに、目を開けていられない。
ついに、私は睡魔に負けてしまい、木に凭れて座ったまま、寝てしまった。
微睡みの中、体は温かくて、何かに凭れているのかは分からないけれど、木の感触とは違うそこに擦り寄るように、頭を擦り付ける。
顔の近くで誰かが笑った気がした。
「ったく、人の気も知らねぇで……無防備に気持ちよさそうな顔して寝やがって」
二郎の声がする。文句のような言葉とは裏腹に、優しい声。
前髪が撫でられ、避けられる感覚の後、額に柔らかい何かが当たる感触。
何だろう。眠さが取れなくて、考えられない。
耳にチャイムの音が聞こえ、それが目覚まし時計となって、私は目をゆっくり開く。
「っ!!?」
物凄い至近距離に、驚きに目を見開いて、真っ赤になった二郎の顔がある。相変わらず綺麗な目に、ついつい見惚れてしまう。
私は二郎の肩に凭れ掛かって眠っていたようだ。体には、男子のブレザーが掛けられている。
微かに二郎の匂いがして、ブレザーからいまだ固まって動かない二郎へ、視線を移動させる。
「二郎の目って綺麗だよね……」
「え、は? あ、目? そうか?」
「うん。宝石みたい……」
そう言って微笑むと、二郎がまた赤くなる。
まだ頭がふわふわしているけれど、さすがに起きないとマズい。
二郎から離れ、伸びをする。
「ずっと肩と上着貸してくれてたんだね。ありがとう」
「べ、別に、大した事じゃねぇよ」
ブレザーを着る二郎に、私はそう言えばと思い、口を開く。
「私が寝てる間、何かした?」
「はぁっ!? べ、べべべっ、別に、な、何もしてねぇしっ!」
動揺が凄い。そんな反応では、全く何も隠せていないじゃないか。
「二郎のエッチ」
ニヤリと笑って二郎の耳元で囁くと、耳を押さえて真っ赤になりながら後退る。
可愛い反応だな、ほんとに。