第1章 不良少年とビッチ(?)なあの子
いくら何でもそれはありえない。
「あはははははっ、それはないよ。もし他人だったとしても、タイプじゃない」
あんな何でも出来る完璧男を、恋人にするのは荷が重い。
「そ、か……」
「安心した?」
「ばっ、べ、別にっ……」
一瞬目を見開いて焦りを見せた二郎が、そっぽを向いてしまった。
話せば話す程、彼の可愛さが私の中に染み込んでくる。
手を伸ばせば届く距離にいるけれど、私からは触らない。
奥手で恥ずかしがり屋な彼から、私に触れるようになるまで、私は待つつもり。
もっともっと、求めて、欲しがればいい。
機械音がする。
「スマホ、鳴ってない?」
スマホを取り出して、通話ボタンを押す。
「おー、どした? 今からか? あー……」
何度かこんな事があった。多分、サッカーのお誘いだろう。
私をチラリと一瞥して、答えに困っているから私は行っておいでと口だけ動かして、立ち上がる。
スカートを払って、彼の行くであろう方向とは逆へ足を向けた。
「はぁ……掴まれてたら行けないんですけど?」
「行っちまうのかよ……」
座ったまま私の手首を掴んで、寂しそうな顔で上目遣いに見上げる。
もう、本当にこの人は、私を困らせるのが上手い。
こんな顔をされたら、離れられないじゃないか。
手が離れないから、そのまま改めて二郎の前にしゃがみこむ。
「サッカーするんでしょ? それとも、私がいないのが、寂しいの?」
わざとからかう様な事を言い、また必死に否定する姿を想像して、笑いそうになった私の目には、その結果が見えなくて、予想外の光景を目の当たりにする事になった。
顔を背けて目を逸らすまでは予想通りだったのに、二郎は私の質問に素直に頷いたのだ。
卒倒しそうになる。
こんな可愛い生き物が、存在していいのか。
「見に来いよ……見られたくないなら、ちょっと離れてれば、いいじゃん……な?」
彼の可愛いお願いを、私に断れるはずもなく、離れた場所で見学する事を条件に、同行する事になってしまった。
別に逃げないのに、手は相変わらず私の手首を掴んだままだ。
彼がこんなに甘えん坊だとは思わなかった。
母性本能というのか、二郎に関しては、甘えられても悪い気はしない。