第1章 不良少年とビッチ(?)なあの子
山田君に背を向けて、扉へ向かう。
早く離れなきゃ。
「ごちそーさま」
平然を装い、彼を見る事なく扉に手をかける。
手首を掴まれた。
ダメだ。やめて。私を引き込まないで。
「離して……」
「嫌だ」
「勘弁してよ……」
「今離したら、絶対もうあんたを捕まえらんねぇ気がする」
捕まえるって、私は犯人か。
ほんと、どこまでも面白くて、可愛い人。
「何でわざわざ捕まえるの……」
「分かんねぇ……でも、俺はあんたとまた話したい」
まるで告白でもされているかのような、力の篭った言葉に声が出ない。
人間は欲が出るもので、もっと欲しがって求めて欲しくなる。
「山田君男の子なんだから、私一人くらい捕まえるのなんて、簡単でしょ? 同じクラスだし」
「……え?」
やっぱり知らなかったんだ。
「いいよ、話すくらいなら。でも、クラスでは私に関わらないってのが条件。約束、出来る?」
少し不満そうにしたけれど、山田君は「完全無視は無理だけど」と言ってそれを承諾した。
こうして、よく分からない関係が生まれてしまった。
それ以来、色んな場所で話をするようになった。
彼には兄と弟がいて、お兄さんに憧れていて、お兄さんが大好きなのが伝わってくる。
「三郎はマジで可愛げねぇんだよ」
こんな悪態を吐きながらも、話す時の楽しそうな顔は、弟君を大切にしているのが分かった。
こうやって、家族の話が出来るのは羨ましい。
「の家族は?」
私は両親と叔父の話をした。
「悪ぃ……」
「大丈夫。両親の事はほとんど覚えてないし、たっくんがいるから」
たっくんの話をすると、二郎がちょっとだけ複雑な顔をする。
「あの、さ……あの人、俺らとそんなに歳変わんねぇじゃん? どっちかってーと、女子にも結構人気ある人だしさ」
何が言いたいのか、首を傾げながら言葉を待っていると、言い淀んでいた二郎が口を開いた。
「その……好きに、とか、ならねぇの?」
まさかの質問に、私は呆気に取られた。
そんな疑問を投げ掛けられるとは思わなかった。
確かにたっくんは格好いいし、高身長だし料理も上手で、何をやらせてもソツなくこなす器用人だ。
でも彼は、私にとって家族だ。