第1章 不良少年とビッチ(?)なあの子
予想外な事に、動けなくて。
鼻をヒクヒクさせながら、匂いを嗅いでいる。
「あんた、いい匂いすんな……何か付けてんの?」
「え、な、何も……」
顔に少しだけ熱が上がるのが分かる。
「へぇ……そんな顔もすんだな……新たな発見」
ニヤリとした顔にドキリとする。心臓がうるさい。
「ダチから聞いた話には、ちょっとだけ続きがある」
顔が離れて、また同じ距離に戻る。
「一匹狼ですげぇテク持ちの、誰にも靡かないクールビューティー」
クールビューティーって、初めて言われた言葉だ。
「何それ、あははっ……」
面白くて笑っている私に、山田君は変わらないトーンで続ける。
「あんた美人だし、クールってのもあってんだろ。男子に結構人気らしいぜ」
ヤりたいだけの年頃の男に好かれても、特に嬉しくはない。
「山田君は?」
それでもやっぱり、彼には私がいない前の生活に戻ってもらわないと。こんないい人、巻き込みたくはないから。
彼は今更冷たくしても意味がないだろう。
フェンスを背にしてる山田君に、体を押し付ける。
「山田君には、私は人気ある?」
胸の辺りに手を添わせ、上目遣いに見上げる。
絶句している山田君を追い詰める。
これで離れてくれるといいけど。
「……あるって言ったら、どうすんの?」
これは、予想外だ。まさか、抱き返されるとは思わなかった。
腰に回された手の部分が、熱い。
目を見るだけで赤くなって逸らす彼なら、迫れば逃げると思ったのに。
私の予定は狂った。
オッドアイが私を捉える。体が、ゾクリとして熱くなる。
彼はなかなか私の手には負えないかもしれない。
「はぁ……君はどうやったら離れてくれるの?」
「もう無理だな。興味持っちまったし」
ニカっと笑った顔が、無邪気でやっぱり可愛くて。
私も相当彼に興味を惹かれているらしい。
体が勝手に動いた。彼の顔を両手で挟んで、引き寄せる。
唇がゆっくりと触れた。
ただ、触れているだけなのに、体が熱くて、疼いて、たまらなくなる。
これ以上は、ダメだ。
山田君の体を押して離れる。
激しくしたわけでもないのに、息があがって、荒くなる。